<2015年10月20日オンエア>
(上川)リスナーの皆さまこんばんは、上川陽子です。
(鈴木)コピーライターの鈴木真弓です。どうぞよろしくお願いします。
(上川)今日はグローバルなお話から始めましょう。私がダボス会議で有名な世界経済フォーラムに参加していることは、ラジオシェイクで何度かお話したことがあると思いますが、今日ご紹介したいのは、世界経済フォーラム・地球規模問題評議会北極グループのこと。世界経済フォーラムでテーマ毎に設定された会議体がある中、北極圏をテーマにしたワーキンググループです。北極地域における持続可能な発展について、気候変動が北極地域の環境に与える影響や、各国政府及び国際機関へ対応の強化について話し合っています。私は2年間メンバーとして参加しています。
(鈴木)北極圏の問題は、日本にとっては遠いようで、実はすごく身近な問題でもあるんですよね。
(上川)今、地球が大きく変化をしています。温暖化の問題は皆さんも関心を持ってくださっていると思いますが、今年も夏から異常気象が続きました。豪雨や台風も頻発し、気候変動が自然の生態系に大きな影響を及ぼし、身近な災害として実感されていると思います。
同じように気候変動の影響が北極圏にも及んでいます。北極圏はご承知のとおり陸地がなく、大きな氷の島があるんですが、これが温暖化の影響で急速に溶けているんです。氷が融け出すと海面が上昇し、生態系に影響を及ぼすということで、日本は氷の島―いわゆる永久凍土といわれる場所の生態系の研究を長年地道に行っています。このことが国際的にも非常に高く評価されており、日本の研究による基礎データが基礎資料にもなっているのです。
(鈴木)日本がそのような研究に注力してきたきっかけは何でしょう?
(上川)科学技術の文化を持つ日本の研究者が、日本の自然環境に影響がある身近な北極圏に関心を寄せるのは自然なことだったと思います。
(鈴木)考えてみれば海洋国家なんですよね、日本って。氷が急速に融けて海面上昇し、生態系に影響があるということですが、北極圏には実際に人間も住んでいますよね。私の妹夫婦がアラスカに住んでいたことがあり、氷が減っているという話を直接聞いたことがあります。
(上川)北極圏を取り囲むようにして沿岸国がいくつかあります。アラスカつまりアメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー等。これら直接沿岸国による協議会組織があり、イヌイット等の先住民の生活圏を大事にしようとさまざまな取り組みを行っており、日本もオブザーバー国としての参加が認められました。日本の貢献というのは科学技術の分野で地道に積み上げてきたこと以外に、各国との共同研究にも発揮されているんです。
(鈴木)科学的知見も大切ですが、原住民の方々による住民だからこそ気づく環境変化の証言も大事では?
(上川)もちろん、科学的データのみならず、実際の生活の中で何がどう変わるかを考えなければなりません。たとえば日本なら北海道。日本は南北に差のある国土を持ち、北極の氷が融けることが北海道に住む人々の暮らしに何らかの影響を及ぼすという視点を持つことが大事です。
(鈴木)氷が融けるということは海の面積が広がるということですよね。変な話、政治的なバランスにも影響が出てくるのでは?
(上川)私自身、北極圏は新しいフロンティアであるという意味を込めて3年前に議連を立ち上げたのですが、新しいフロンティアを開発する際、自然生態系や住民の生活圏のバランスを取る、マイナスの影響を最小限に留めるということに、今以上の配慮を行うというメカニズムを取り込む必要性を世界経済フォーラム・地球規模問題評議会北極グループで提言しました。
鈴木)まさに、日本という高度な科学技術を持つ国が提言することに意義があると思われますが、アメリカ、ロシア、カナダ等の大国が足並みをそろえてくれないと…という気もします。
(上川)国となると国益を重視し、それに引っ張られると物事は進みません。むしろ民間の知恵を集めて交流することが大事であると、私自身、世界経済フォーラムには個人の資格で参加しています。もちろん、国にもしっかりポリシーを持って取り組んでもらうべく国家戦略を立案し、新年度の予算に組み込むよう議連でも提言しています。ほどなく発表の機会があろうかと思います。
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(鈴木)さて、後半は法務省でのグローバル活動についてうかがいます。現在、陽子さんが力を入れておられる施策の一つに、アジア諸国への法整備支援があるということですが。
(上川)法を整備するということは、国の発展に不可欠なものですね。国の統治機構を含めて基盤となるものです。日本は明治維新後、ヨーロッパ諸国の法整備支援によって近代化の道を切り開くことができました。今度は日本がアジアのお手本になる時代です。支援対象国の実情にあった側面支援というスタンスで、法務省を中心に重要な役割を果たしています。まず1994年からベトナムで約20年。その後、ラオス、カンボジア、ミャンマー、インドネシア各国から法整備支援のリクエストがあり、JICAとともに支援をしてまいりました。
(鈴木)いわゆる法務外交と呼ばれるものですね。
(上川)そうですね。このような取り組みは実はあまり知られていないということに気が付き、もっと光を当てようと思っています。現実な話でいえば、司法に関わる人材養成についてはUNAFEI=国連アジア極東犯罪防止研修所に約1500人の研修生を受け入れています。それと同時に長期にわたり、検事や裁判官を育てるため、日本の専門家がJICAの職員とともに現地へ行って研修を行っています。
カンボジアでは民法や民事訴訟法をカンボジアの実情に合わせたもので起草しました。またインドネシアでは日本企業も数多く進出しており、知的財産権の関心も高まっていることから、知財の法律について日本の支援で作りました。実際の紛争では日本では高等裁判所が扱いますが、そのような制度も積極的に構築しています。
法務外交の中でも一緒に制度を作っていくという取り組みは、日本の考え方や価値観を共有していくということですから、ソフト面での安全保障と位置付けられるのではないかと考えています。防衛分野とのバランスを取る意味でもソフトパワーでの法整備支援が日本の新たな国際貢献として位置付けられるでしょう。2020年には日本にもたくさんの海外のゲストをお迎えするわけですから、極めて大事な取り組みではないかと思っています。
(鈴木)安全保障と聞くと、どうしてもニュースで取り上げられる防衛や難民の受け入れ等をイメージしますが、インドネシアで知的財産権に関わる法整備を支援するということは、日本企業の保護のみならず、インドネシア経済の発展のためにも不可欠な要素ですよね。
(上川)こうした人と人との交流、知のトランスファーを通じて実践する平和で健全な社会づくり。法務省は日本国内の仕事を中心にやっている官庁だというイメージの強いのですが、もっとこのことを広げていく使命があると実感しています。国家の柱の一つとしてさらに充実させたいと思っています。
(鈴木)来年度の予算にも反映されていくんでしょうか?
(上川)予算に反映させるということは大きなメッセージになります。来年度予算は12月までに概算要求するのですが、法務省としては4つの大きな柱を立てています。ひとつは2020年東京オリ・パラに向けた安全安心な国―入国管理ですね。2番は再犯防止。「もどらない・もどさない」宣言を推進していく。3点目は経済や産業の発展、震災復興等において極めて重要な土地登記の整備。4番目として法務外交を中心とした取り組み。法務外交は今回初めて入ったテーマです。なんとか予算が通るよう努力してまいりたいと思っています。
(鈴木)それにしても陽子さんが法務省に入られてから、法務省がこういうメッセージを持った組織であるということがよく伝わるようになってきたと実感しているんですが、いかがでしょうか?
(上川)広報はPRではなく、自分たちの組織の役割を正しく理解していただくことだと理解していただきたいですね。省内にいる職員は自分たちの仕事がどういう意味を持つか案外気が付いていないこともあり、外から見てプライオリティーを付けることも政治の大きな仕事ではないかと思います。
法務省がコツコツ20年やってきた法整備支援は非常に大きな国際貢献であり、そのことを政治的なメッセージとしてしっかり伝え、理解していただく。これこそが広報の本来の意味です。そういう視点が今まで欠けていたのではないかと実感し、早いうちに戦略を立てて実践してきましたので、芽が出てきたかなと思います。流れを作るのは並大抵のことではありませんが、しっかり作って次へバトンタッチできればと思っています。
さあ、そろそろお時間となりました。最後までおつきあいくださったリスナーのみなさま、本当にありがとうございました。それでは次回まで、ごきげんよう。