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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

日本看護連盟発行「アンフィニ」 2006年秋季号掲載

「夜間医療に関する勉強会」の成果

厚生労働大臣に緊急提言を提出

-- 上川陽子座長に聞く--

看護技術者対策議員連盟(看議連)では、有志の議員を募り、 3月から6月にかけて「夜間医療に関する勉強会」(座長:上川陽子衆議院議員、副座長:あべ俊子衆議院議員)を7回開催しました。この勉強会の成果は「5つの緊急提言」にまとめられ、7月13日川崎二郎厚生労働大臣に提出されました。

この画期的な勉強会で座長を務められた上川陽子衆議院議員にお話を伺いました。

 

7月13日、夜間医療に関する勉強会の成果を緊急提言としてまとめ、川崎二郎厚生労働大臣に提出。大臣室で、上川座長が川崎大臣に緊急提言を手渡した。

 

厚生労働大臣に緊急提言を提出する前後に行われた記者会見。上川座長から緊急提言の概要が説明された。

夜間医療を考えることは、医療全体の将来を考えること

 

昨年 5月、静岡県看護連盟の白松万里子会長にご案内いただき、静岡市内の2つの病院で夜間の看護・医療の現場を視察しました。この時のレポートを「N∞[アンフィニ]」に変わる前の「連盟通信」2005年10月号に寄稿しましたので、読まれた方もいらっしゃるでしょう。その時、あまりに少ない人数で夜間医療に対応していることに驚き、従事している人の不安・ストレスは相当なものではないかと思いました。このことが、医療事故の発生につながっている面も無視できないのではないか、現場の実状を理解しないまま体制が組まれているではないかとの疑問を持ちました。

その後、看議連の勉強会では座長を務めることになりましたが、そこで私の疑問点を検証したいと考えていました。このような勉強会は看議連では初めての試みで、夜間医療に関してはこれまでまとまったデータもありませんでしたので、今回の勉強会は画期的かつ非常に有意義だったと思います。病院経営が合理化を迫られる一方、国民の医療に対するニーズはますます高度化しており、多くの医療従事者はたいへん厳しい状況におかれています。夜間とは、そんな日本の医療の様々な問題点が最も浮き彫りになる時間帯だと思います。夜間医療の問題を考えることは医療全体の将来を考えることにつながる、と言ってよいでしょう。

夜間医療に関する5つの緊急提言

 

夜間医療に関する勉強会は 4か月の間に合計7回行われました。私自身は、このテーマにもっと時間をかけて取り組みたいという思いもありましたが、やはり早く皆さんに問題意識をぶつけて、具体的な政策を打ち出し、さらに前に進めるべきだと判断しました。時期的に予算の概算要求に反映していただきたいという気持ちも強く、緊急提言をまとめ、7月13日に川崎厚生労働大臣に提出することになりました。

この緊急提言には、いろいろなレベルのものが含まれており、すべてを一様のやり方で解決できるというものではありません。中には、今ある制度を上手く運用することで解決できるものもあるでしょうし、制度を変えたり新しくつくらなければならないものもあります。

<5つの緊急提言>

 

1.地域医療計画において病院の役割を明確化し、医療資源の有効活用を!

同じ都道府県下の病院同士が役割を分担し、医療資源を有効に活用していく。あるいは、地域全体で夜間医療に対応し無駄をなくしていこう、ということです。

2.医師・看護師等の医療スタッフの質・量両面の充実を!

現状でも医師や看護師の数が少ないうえに、機能に応じて人数を増やし、スタッフの質を高める必要があります。特に若い看護師の教育に時間がかかるようになったほか、やめる人も増えています。また看護師として早く独り立ちできるよう教育体制を充実させることも必要です。

3.夜間医療現場の実態に合わせた適正な人員配置を!

国民のライフスタイルの変化に伴い、夜間医療にも昼間とほとんど変わらないニーズがあります。患者のニーズに合わせて、病院内の人員配置も変えていく必要があります。

4.医師・看護師の育児期にも配慮した多様な働き方の支援を!

夜間保育施設のある病院は全体の半分くらいでしょうか。コストがかかるという理由で夜間医療から撤退したいという病院もあるようです。しかし医療スタッフの 6割は看護師で、そのうちの90%以上が女性です。医師も女性の比率が増えています。子育てしながら仕事を続けたい人をバックアップする体制を充実させる必要があります。また、たとえば夜勤専従看護師など、多様な勤務形態も考えなければならないでしょう。

5.小児救急電話相談事業の一層の強化等、住民への的確な情報提供を!

救急車の利用のうち 8割が軽症だと言います。このことは、本当に必要なときに救急車が使えなかったり、夜勤スタッフが十分な対応を出来なかったりすることがありうることを示しています。また、どこの病院も常に万全な体制を整えているわけではなく、むしろ万全でない病院の方が多いわけです。救急相談を行うトリアージ・ドクターが電話で症状を聞き、対応を指導したり、どこの病院で何を診療できるかできないかを充分把握した上で、住民に適切な情報提供ができるような体制を目指したいですね。

病院のイメージが変わった?

 

今回の勉強会で、改めて明らかになったこともありました。たとえば病院内の安全管理の問題です。病院は、夜間でも、誰もが容易に出入りできます。不審者対策はほとんどなされていません。また入院患者も高齢者が増えており、認知症患者のなかには暴れる人もいます。患者からセクシャル・ハラスメントを受けることもあるようです。病院は安全な場所という一般的なイメージがあるのですが、常にそうとはかぎりません。この面では今後何らかの対策が必要だと思います。

 また、在院日数の短縮化により、これまで以上に密度の濃い医療・看護が要求され、業務もより忙しくなっています。その分スタッフのストレスが増えているのではないでしょうか。さらに医療技術の進歩に伴い、スタッフは常に新しい知識を取り入れていかなければなりませんが、勉強会や研修会に参加する時間がなかなか取れず、勉強会に参加することで現場が手薄になるおそれもあります。

医療サービスを受ける側に立って問題を見つめていきたい

 

診療報酬の削減が決まりましたし、今回の提言で新たな予算がどれだけつくかはわかりません。しかし地域ごとに病院間で機能分担を明確にし、効率的に機能できるようにするための方策はやはり必要でしょう。また、医療リスクを防止するための予算は厚くしたいですね。事故を未然に防ぐことは、トータル・コストを押さえることになると思います。

ヒヤリ・ハットが夜間に特別多いというわけでもありませんが、夜間勤務で長時間の緊張を強いることが昼間の勤務にしわよせされ事故の原因になっています。夜間医療体制の充実は必要です。電話相談の体制を整えて適切な医療を提供できるようにするのも、全体の効率化につながると思います。医療現場は女性が多く働く職場でもあります。この観点から、女性の働き方、少子化対策という点で新しい予算をつけることも考えられるでしょう。

専門家でない私がなぜ夜間医療を?と聞かれることもありました。専門家の立場だと、かえって見えない部分や発言しにくい部分があるものです。やはり国民の視点、つまり医療サービスを受ける側がいちばん切実な問題を発信している。それを見落とさないよう、私は医療サービスを受ける側の声を最大限大切にしていきたいのです。これが私の役割だと思っています。今後とも私はこの勉強会をベースに、よりよい医療提供体制の構築に取り組んでいきたいと考えています。たとえば、地域医療も今後取り組みたい課題の一つです。

 

上川 陽子(かみかわ ようこ)  総務大臣政務官 衆議院議員(静岡 1区)

1953生まれ、静岡県出身。東京大学卒業、ハーバード大学院政治行政学修士(フルブライト奨学生)。三菱総合研究所研究員、ボーカス米国上院議員政策立案スタッフを経て、2000年6月、初当選。2005年11月、総務大臣政務官に就任。

(参考)

2006.07.19 夜間医療充実の緊急提言を取りまとめ、厚生労働大臣に提出

2006.03.08 自民党・夜間医療問題の勉強会を立ち上げ

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