かみかわ陽子のラジオシェイク第13回オンエア(2)犯罪被害者等基本法成立の裏側

 

 4月3日オンエアの「かみかわ陽子ラジオシェイク」、トークの後半です。

 

 

 

(鈴木)さて、陽子さんが議員時代に力を注がれてきた政策のひとつに、司法制度改革があります。法律に関すること、と聞くと、なんだか庶民には縁遠いような気もしますが、陽子さんが手がけた犯罪被害者の権利に関する法改正は、たとえば先月最高裁で死刑判決が確定した山口県光市の母子殺害事件などでもクローズアップされましたね。


 

 


(上川)犯罪被害者等基本法は、平成16年に出来た法律です。関わったきっかけは、衆議院議員の2期目に当選した直後の平成15年始めのことでした。当時、自民党では国民に身近な司法制度に改革しようということで、司法制度調査会の保岡興治会長から、「犯罪被害者への施策に関するプロジェクトチームの座長として提言をまとめてほしい」という要請を受けたんです。


 

私自身は当選1回の時に少年法の改正に取り組み、その折に少年犯罪の被害を受けられた方、ご遺族の方から意見を聴取する機会がありました。短い時間でしたが、ご遺族の皆さまの声にどう応えたらよいのか、心がつぶれる思いだったことを今も鮮明に覚えています


 

 


 

(鈴木)少年犯罪の加害者は少年法に守られ、一方で被害者には何の情報も与えられないと聞きますからね・・・。


 

 


 

(上川)この問題に取りかかる前に、犯罪に巻き込まれたご家族、ご遺族、そしてご本人から生の声を、できるだけ多く聴かせていただくことから始めよう、と心に決めました。
 こちらから一言も言葉を返すことができなくなるような、つらい体験談をたくさんうかがいました。そんなとき出会ったのが、犯罪被害者あすの会の岡村先生や本村さんたちでした。被害者のみなさんたちは、ご自身カウンセリングを受けながら、同時に被害者の方たちに被害の傷から立ち直るため様々な苦労やトラブルをともに戦っておられたんですね。


 

 


 

(鈴木)支援する立場であると同時に、支援される立場でもあったということですか・・・。


 

 


 

(上川)そうなんです。しかもその戦いは、犯罪に巻き込まれた瞬間から立ち直るまで、終わりのない戦いなんです。そういうことを、当事者の声から直接学ぶことができました。


保岡会長からは6か月後に中間報告を出すよう言われていました。立法の世界でいう「中間報告」とは、通常、ほぼ最終報告に近いものを意味します。つまり、一般的には中間報告段階における検討成果によって、基本法あるいは基本計画の大きな骨組みが決まるわけです。

 中間報告までの短いプロセスがきわめて重要な意味を持つと考え、私は、被害者や支援団体の皆様にこの会議に積極的に参加していただくようお願いし、公開の場で議論を進めていくことを提案しました。

 

 

 保岡会長ほか同僚議員のみなさんにも議論に参加していただき、基本法へ、さらには基本計画へと努力を積み重ねました。無事、中間報告の成果を当時の小泉総理に提示することができ、その結果、直ちに基本法を作るよう総理から指示をいただきました。小泉総理はこの問題に大変強く関心を持ってくださっていました。6か月後の平成16年12月、議員立法で犯罪被害者等基本法という画期的な法律を制定することができました。


 

 

 

(鈴木)なるほど、当事者の声を基本計画にしっかりと織り込んだわけですね。この基本法の画期的な点というのは?

 


 

(上川)基本法には「前文」があります。憲法にも前文がありますが、法律に前文をつけるということは必ずしも一般的ではなく、むしろ珍しいんです。しかも犯罪被害者等基本法の前文はかなり長いもので、当時、法律専門家からは「ちょっと長すぎるのではないか」とクレームが寄せられたほどでした。


 

しかし法案をまとめた私たち国会議員は、基本法の精神や理念を前文で明確にしておくことは極めて大事だと判断し、前文を盛り込んだんです。私が犯罪被害者の方々からお聞きした言葉も、そのままの表現で盛り込まれています。ちょっと読んでみますね。


 

 


 

 『安全で安心して暮らせる社会を実現することは、国民すべての願いであるとともに、国の重要な責務であり、我が国においては、犯罪等を抑止するためのたゆみない努力が重ねられてきた。
 しかしながら、近年、様々な犯罪等が跡を絶たず、それらに巻き込まれた犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。さらに、犯罪等による直接的な被害にとどまらず、その後も副次的な被害に苦しめられることも少なくなかった。


もとより、犯罪等による被害について第一義的責任を負うのは、加害者である。しかしながら、犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する我々もまた、犯罪被害者等の声に耳を傾けなければならない。

 国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性が高まっている今こそ、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。

 ここに、犯罪被害者等のための施策の基本理念を明らかにしてその方向を示し、国、地方公共団体及びその他の関係機関並びに民間の団体等の連携の下、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。』


 

 


 

この前文に盛り込まれた基本理念は、「全て犯罪被害者は個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」ということです。この「尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」を定めた規定が、法案を作る際に問題となった最大の論点だったと言えるかもしれません。


 

 

(鈴木)どういうことですか?



 

(上川)「権利」という2文字を入れることへの抵抗が、すさまじかったんです。法律に「権利」を明文化すると、権利を守るための国家の責務が発生しますからね。権利の2文字の明文化に対する抵抗は、犯罪被害者の皆様の必死の叫びによってはじめて打ち破られたのです。


この表現が基本法に盛り込まれたことで、基本法が犯罪被害者のみなさんを単に「支援」の対象とする法律ではないこと、犯罪被害者の正当な「権利」を擁護するための法律であることを明確にできたのです。憲法には犯罪被害者のみなさんの権利は盛り込まれておりませんので、これが憲法に代わるものだと思っています。


 

 

(鈴木)支援することから、権利を保障するって、確かな前進ですね。

 


 

(上川)その後、裁判員制度とともに、裁判への被害者参加制度も皆様のご努力で社会に受け入れられていますが、「権利」としての基本法の理念をしっかりと社会に根付かせていく努力が求められます。


 

 

鈴木)犯罪被害者がおかれた状況はそれぞれ異なりますよね。


 

 

(上川)そこが難しい点です。交通事故による被害者、殺人による被害者、サリン事件の被害者、9・11テロに巻き込まれた方、少年による犯罪被害者・・・、それぞれの被害者の思いや事情は異なります。お一人お一人、ケースバイケースできめ細かく対応することの大切さも法律に盛り込みました。


また全国どこに住んでいても、等しく適切な支援を受けることができるようにしていくこと、そのためには国、地方公共団体、そして民間の皆様のご支援も含め、これらがスクラムを組み、連携して対応していくことが不可欠です。

 静岡市には被害者支援センターがありますが、例えば県内でも伊豆にはありません。どこに住んでいても安心して支援を受けることができるような仕組みを作っていくことにもっと力を入れていかなければいけないと思っています。


 

 

(鈴木)今は地震や津波対策のニュースに関心がとられていますが、考えてみると、地震や津波の被害にあう確率と比較しても、日常生活で、突発的な事件事故に巻き込まれる確率も決して低くないはずですね。


 

 

(上川)日本の場合、社会が縦割りの仕組みになっていますので、ややもすれば被害者の皆様が相談窓口を転々とすることになりがちです。そうしたことが起こらないよう、被害者の皆様の状況に合わせて必要な支援が途切れることなく提供される、シームレスな取り組みをしていく必要があります。基本法に基づくこれらの施策が、本当の意味で皆様の安心につながるよう、一層の改善に向けて求めていく根気強い取り組みが大切ですね。


 

 


 

 ♪ エンディング


 

 


 

(上川)この今日は、夕方にお引っ越しして最初の放送でした。初めてお耳にかかったリスナーのみなさま、いかがでしたでしょうか?


 

 

(鈴木)上川陽子の声を初めて聞いたという人もいるかもしれませんね。


 

 

(上川)・・・声だけじゃなくて、私のナマの姿を見てみたいという方は、静岡まつり夜桜乱舞の『太陽連』というグループの踊りをぜひ見に来てくださいね。


 

 

(鈴木)今月から月に2回の放送になります。今日は硬軟取り混ぜた内容ですが、上川陽子のたくさんの引き出しの中から、楽しい話、面白い話、ちょっと考えたい話・・・いろんな話題を取り上げていきたいと思っています。


 

 

(上川)最後までおつきあいくださったリスナーのみなさま、本当にありがとうございました。それでは、再来週までごきげんよう。


 

 
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