11月27日オンエアのラジオシェイク続きです。後半は、初代公文書管理担当大臣を務めた陽子さんの、『記録を正しく残す』ことへの思いをうかがいました。
ホノルルでは日米首脳会談も開かれました。その内容の総括として政府声明が発表されたのですが、アメリカの理解と日本のメッセージの間に差があったことで大きな問題となりました。アメリカ政府は「野田総理がTPP交渉の場にすべての材を俎上に載せると述べた」と発表しましたが、日本政府は否定した。両者の意思が異なるということが表ざたになってしまいました。
首脳会談の内容というのは、トップの決断を表に現すのですから、大変な重みがあります。にもかかわらず、〈言った・言わない〉の議論になるというのは、そもそもTPPについての熟度がなっていないということ、国民の不信感・不安感をさらに深めてしまいました。極めて問題であると認識しています。
(鈴木)なぜ公式の会談の内容が違ったアナウンスで伝えられてしまうような結果になったのでしょう?
(上川)私も言ったか言わないかの真偽はよくわからないのですが・・・。
(鈴木)ちゃんとした記録をとらないんですか?
(上川)双方でとって一つにするのが当たり前ですが、ギャップがあったということは極めて問題です。本来であれば双方でとった記録を互いに突き合わせ、確認し合うという作業があるのですが、TPPは非常に政治的な思いの強い案件ですので、それぞれの立場で戦略的配慮があったのだろうと思います。
日本の場合、正確な記録を残していくという文化が弱いということを議員時代から実感していましたので、こういうときに顕在化してしまったのでは、と思います。
(鈴木)日本にそもそも、正確な記録を残すという文化がなかったということですか?
(上川)実はご承知の通り、私は初代公文書管理大臣を務めました。任命者は福田元首相です。福田さんがライフワークとしてこの問題に取り組まれていて、今年4月に公文書管理法という法律が施行したのです。
(鈴木)え!今年ですか?
(上川)そうなんです。今まで国民の皆さんが政治行政の活動についてちゃんとした記録を見たいというときは、情報公開法という法律に基づいて開示されていましたが、記録そのものをきちんと作成するという法律がなかったのです。このことについて深い問題意識をお持ちだった福田さんが、私に、ちゃんとした法律体系を作るようにと命じられたのです。
福田さんはお若い頃、アメリカの公文書管理局を訪問し、カルチャーショックを受けられ、日本に公文書を管理する法律が必要だと訴えておられました。むこうでは公文書の管理の仕方が徹底していたのですね。日本には法律すらないということで危機感を持たれ、官房長官を務めておられたとき研究会を立ち上げ、総理になられてから議員懇談会が発足したのです。
(鈴木)陽子さんはその会に参加されたのですね?
(上川)そうです。公文書に対する意識は日本の政治家の中でもさほど高くなかったのですが、覚えていらっしゃるでしょうか、2007年、年金記録問題が表面化しましたね。被保険者の名前の読みを確認しなかったり、住所を省略してしまったり、生年月日を手書き入力して間違いに気づかなかったりと、きわめてずさんな記録管理のために、宙に浮いた年金記録が5千万件も発生しました。この5千万件を検証確認するだめに、1,800億円もの税金がつぎ込まれ、未だに収拾されていません。
また防衛省では「なだしお」の航海日誌が紛失したという事件も起きました。さまざまなところでそのような不祥事が起きて、記録を正しく残すという作業の重要性が認識された。法律に基づいて記録文書を正しく残すという意識が高まって来たんですね。
(鈴木)最近でいえば、政治の中の話ではなく、一般の企業でも情報を扱うことに対する問題が表面化し、厳しい眼が向けられていますね。
(上川)組織である以上、企業も国家も同じです。記録をしっかり残して公開するという風土、つまりコンプライアンスに対する姿勢が問われているのです。社会的責任として正しい情報を公開するということが企業の透明性や信頼性につながると認識されています。世界的流れの中で、国も地方自治体も企業も、このことに取り組まなければ信頼が問われるという状況ですね。
(鈴木)民間企業であれば株主への責任があります。陽子さんが公文書担当の大臣になられて法律を作られたというのは、そのような強い思いがあったからなんですね。
(上川)どのような形で法律制定までこぎつけたかは、また機会を改めてお話するとして、すべての記録をしっかり取るということが、未来の重要な決断のベースにもなるということをご理解いただきたいと思います。また最近では訴訟問題につながることから企業では法律の専門家を入れて対処しなければなりません。ますます正しい記録を残すという文化が重要になるわけです。
(鈴木)公文書をきちんと残すって、民主主義の根幹のような話になりますね。
(上川)民主主義の最も大事な基盤ですね。さらに日本人のルーツやアイデンティティにつながるものですので、未来に活かしきるという文化を育てていかなければと思います。
(鈴木)とくに今年は震災や原発事故の現場でどのような指示がなされ、報告があったのか、適正に管理していただく必要がありますね。
(上川)今、東日本の被災地では、記録が津波で流され、文書のレスキュー隊というのが編成され、住民基本台帳や年金記録を必死に収集し、大切な記録をよみがえらせようという動きがあるんです。福島原発では発災した直後、どういう行動がなされたかは、国と東電と住民がどんな行動をしたのか、きちんと記録し、ある時点できちんと検証し、教訓を学び取る時期がくるでしょう。
(鈴木)その意味では、今年、公文書を大切にするという法律が出来たというのは、大きな転機になりましたね。
(上川)そうですね。ますます大事になると思うんですが、記録を残すというのはなかなか大変です。日常生活の毎日のことですから、ちょっとでも“明日でいいか”と思ってしまうと難しくなってしまいます。
私たち世代には記録を残す責任があるという自覚を持ち、記録の持つ意味を原点に戻って教育・研修をしていかなければなりません。
法律は運用する人間の努力が必要です。とくに記録を取るというのは極めて地道な作業ですので、法律を作った立場として、この問題につねに心を寄せていきたいと思っています。