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かみかわ陽子

「かみかわ陽子君を囲む会」(3月3日)で配布

 

国政報告集

「いのち」の原点を見つめて

内閣府 特命担当大臣 

衆議院議員 上川陽子

 

「希望と安心の国づくり」

 「信頼と対話」をモットーに街頭演説やミニ集会を積み重ね、2000年の初当選以来、農林水産業の振興や年金問題の抜本改革、「犯罪被害者等基本法」の制定を実現させ、自由民主党女性局長として全国の女性組織の再編・強化や少子化対策推進に取り組み、総務大臣政務官、党政務調査会副会長、衆議院法務委員会理事の要職を歴任。

 昨年の内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画担当)拝命後は内閣の一翼を担い、難問山積の国政運営に臨んでいる。そんな上川陽子が、自分を育て、支え続ける地元静岡に、<今、伝えておくべき政治家としての思い>を熱く語った。

 

静岡発、少子化対策

―少子化対策・男女共同参画の担当大臣に就任されてから、地元静岡市の事例を視察されたそうですね。

上川 幼稚園と保育園の機能が一体化した〈認定こども園〉のモデル事例である、静岡市立安東幼保園を訪問しました。幼稚園と保育園は、簡単に言うと保護者が働いているかどうかで区別されていたわけですが、親の就業にかかわらず、子ども中心の発想でベストな保育環境を作ることが大切です。安東幼稚園では、短時間コースでは幼・保共通のカリキュラムで、長時間コースではこれに保護者が迎えに来るまでの保育がプラスされます。

 お母さんが、仕事を始めたい、勤務時間を延ばしたいと思ったとき、同じ施設でコースを変えるだけ、というのはとても便利だという声を聞きました。

―幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省というように所管官庁が違うことの弊害は感じませんでしたか?

上川 確かに各省の助成制度も違えば、幼稚園教諭と保育士の資格制度も異なり、経営的に効率が悪い部分もあるようです。今では大学等で両方の資格を取る人が多いそうですが、静岡大学でも平成20年4月より保育士養成をはじめるようですね。静岡市立城北小学校では、放課後に学童保育を実践していました。上級生と下級生が兄弟姉妹のように仲良く遊ぶ光景は微笑ましかったのですが、保育園のアットホームな雰囲気に比べると、学校の教室の味気なさを感じました。子どもの視点に立って考えてみたら、小学校に上がっても、放課後は、通いなれた幼稚園や保育園で過ごせるのがいいのでは?とも思います。

―七間町の札の辻にある静岡市子育て支援センターもご覧になったそうですね。

上川 家の中で孤立しがちな子育て専業主婦のためのコミュニケーションづくりが機能していましたね。街中に買物や映画を観に来たとき、ちょっとの間、子どもを預けたい、という希望にも応えてくれます。一方で、働くお母さんからは、「働きづめでストレスを抱える自分たちのような人間だって、本当は子どもを預けてストレス発散したいんです」という声も聞きました。仕事があるなしにかかわらず、子育て中の夫婦が環境に恵まれず、多くの悩みを抱えている実態を痛感しました。

 子どもを持つ家庭のあり様は、子どもの成長に応じて急激に変化します。変化に応じたきめ細かな対応を可能にする柔軟な枠組みが必要だと考えます。

 

男女共同参画施設で機能する民と官の協働事例

―静岡市女性会館アイセル21の視察はどうでしたか?

上川 公設施設でありながら、民間の力を主、行政を従に、利用者の視点をうまく活かし、図書館の利用が進んだり、有益な講座が開催されていました。民と官の立場は今までは完全に逆でしたからね。アイセル21の運営団体は、横浜市の女性会館や東京都の大田区立男女平等推進センター・エセナおおたなど、民間の指定管理者が成功した例をよく勉強していました。

 男女共同参画の取り組み事例を見ると、行政がお膳立てしたプログラムに乗っていればいいという時代ではなく、民が中心となり、「与えられる」から「与える」段階に、ステージが変わってきていることを実感します。

 

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて

―静岡で視察されたことを、ぜひ国政の場で活かしていただきたいと思います。少子化担当大臣として現在、力を入れていることを教えてください。まず、子どもが安心して産める医療体制について、厚生労働省との連携も重要になりますが、大臣ご自身はどのようにお考えですか?

上川 周産期医療体制の整備は急務です。産科の医師不足は、他の診療科よりも高いといわれる医療訴訟リスクが一因であると問題視されています。医師の無過失が証明される場合は、国が補償する等、医師の負担を軽減する措置がとられるようにします。産科を閉鎖しなくても病院経営が成り立つような予算配分も行いました。

 私が主張するワーク・ライフ・バランス―仕事と生活の調和の実践例として、お茶の水女子大学の女性研究者の働きやすい環境づくりを紹介しましょう。科学者というのは長時間に及ぶ実験・調査が多く、子育てとの両立が難しいとされていました。そこで研究者一人につき、秘書を2名付けるという体制を取りました。私はこの方法は女性の医師にも適合できるのではないかと厚労省に提案しています。 

 現在、大学の医学部に進学する人の4割は女性です。医師一人を育てるには相応の税金も投入されますから、医師の育成はまさに国家プロジェクトであるにもかかわらず、結婚・出産を契機に辞めてしまったり、復帰がなかなか難しいというのは国家の損失でもあります。

 子育て中の女医が短時間で働けるしくみや、院内保育園を利用しやすくするなど、工夫はいろいろと考えられるでしょう。医師を目指す、医学部で学ぶというのは、あくまでも個人の問題ですが、教育を受けた者を社会で活かすのは国の問題だと思います。

―全国を精査すると、周産期医療体制が整っている地域もありますね?

上川 わざわざ周産期医療センターを新設しなくとも、身近な病院と、静岡県立こども病院のような高レベルの広域医療機関が総合的に連携し機能することができればいいのです。各県に同じような医療センターを一律に設置するのは無駄ではないでしょうか。この問題は、行政の境界にとらわれることなく、広域で考える必要があります。

 静岡市には、富士や焼津や藤枝あたりからも働きに来るお母さんがいますが、静岡市に住民票がなければ市の施設に子どもが預けられないというのも不便です。大都市には大都市型の、そして地方都市や中山間地には地方都市型・中山間地型の実情やニーズに合わせた支援の仕方があるはずです。それらを選択できるのが望ましい、というのが私の考えです。

―海外の先進事例は参考になりますか。

上川 スウェーデンやフランスでは、企業と地域社会が協調し、子育て家族に対して手厚い支援をしています。フランスは一時的に、出生率が下がったものの、国の対策が功を奏して出生率が上がったモデルケースの国です。パリ市では、働く人の状況と子どもの成長に応じてきめ細かな施策が実施され、子どものいる世帯では公共交通機関の料金を割引するなど効果的な対策も取られています。

 従来、家族手当など経済的支援が中心だったものを、90年代後半以降、育児休業や保育サービスの拡充など、仕事と子育ての両立支援に転換したことで、出生率が上向いたのです。

 日本でも、これらを参考に、まず男女問わず長時間労働をなくし、家族や子どもと過ごす時間を増やすなど、仕事と家庭生活の調和を図る、日本版〈ワーク・ライフ・バランス〉を実現させたいと思っています。

 

親にも子にも必要な〈教育〉

―子どもの成長とともに、重要になるのが教育です。昨今の幼児虐待や青少年の犯罪などをニュースで聞くと、親にも子にも教育が必要ではないかと実感しますが、大臣はいかがお考えですか。

上川 先日、都市部にある女子専門の少年院を視察しました。彼女たちの多くは、親に手料理を作ってもらった記憶がないと言います。子どもにとって家というのは、いつでもご飯が食べられる、ぐっすり眠れるというように、何があっても安心感が持てる場所でなければなりません。それが失われつつあるというのは、日本の危機ではないか、とさえ感じました。

 とくに、幼い頃の食生活というのはとても大事です。しかし、子どもにろくに食事を与えず、虐待するような親が現実にいる以上、子どもを一時的にでも引き離し、養護ホームや里親に託すというように、家庭的な環境で保育できる具体策を取らなければ、その子にとって、とりかえしがつかないことになります。里親の報酬を倍にするなど、対策はしっかり進めています。

―ニートやフリーターの問題も、根幹は教育にありますね。

上川 日本では20歳になると成人の扱いをしますが、年齢が20歳になったからといって自立できるとは限らず、現実に自立できない自分と、社会の期待感の狭間で悩む若者も少なくありません。

 自立の準備は、赤ちゃんのときから始まっています。その原点はたとえば食生活であり、しつけであり、子どもは人と人とのかかわりの中で成長し、自立の手段を学ぶのです。家族がその環境を与えられないならば、誰か、子どもに安心感や信頼感を与える大人が支えて欲しい。そばに支える大人がいれば、子どもはちゃんと育ちます。スキルのある人はどんどん外に出て、子育て支援の活動に参加してほしいですね。とくに団塊世代の人たちは、仕事が終わったら、地域に出てこうした活動に積極的に関わって欲しいと思います。

 

犯罪被害者支援の新たなステージ

―大臣が長年、力を入れてこられた犯罪被害者等基本法についてうかがいます。今年はどのような動きに注目すべきでしょうか?

上川 先般のC型肝炎訴訟の問題を見ても、被害者救済の元である犯罪被害者等基本法の考え方が、いかに重要だったかがおわかりかと思います。

 今年の取組みのポイントは3点あります。一つ目は、法廷内に犯罪被害者が入り、被告や証人に直接質問ができるという刑事訴訟法の大改革。被害者にも国費で弁護士がつく、公的弁護制度も整えられます。

 二つ目は全国で犯罪被害者の支援に取り組む人材育成に道筋を付けること。静岡市では常葉会館で人材育成講座がスタートしました。まず静岡にそういう拠点が出来たことを嬉しく思います。

 三つ目は犯罪被害者への経済的支援です。被害者が自動車の自賠責保険並みの保障が受けられるよう、今国会で法律改正をします。また、犯罪に遭ってから社会に復帰できるまで、医療費や住宅費などの面でケアして行きたいと考えています。

 少年犯罪やテロ、国際犯罪の被害者については引き続き検討していくこととなっています。少しでも対策が進展するよう、努力していきたいですね。

 

ハイレベルの外交戦略が求められる環境・エネルギー問題

―外交についてうかがいます。今年は洞爺湖サミットで環境問題がテーマになります。

上川 日本は資源のない国で、石油などの化石燃料への依存度がなかなか下がりません。こういう〈弱み〉に対しては戦略を持って臨むとともに、省エネ技術などの〈強み〉は国際舞台で積極的にアピールしていくべきでしょう。

 石油価格の問題については、産油国が国家の枠組みで攻勢をかけてくるので、こちらも民間ではなく国家レベルでしっかり立ち向かうべきでしょう。外交の役割はますます重くなっていきます。経済産業大臣が中心となって集中して対応されると思います。

 洞爺湖サミットでは、ポスト京都議定書の国際合意が実現できるか否か、日本にとって大きな試金石になるでしょう。環境大国としての存在感を示すには、京都議定書のCO2マイナス6%の約束をなんとしても実現させなければなりません。

 温暖化防止に現実的に取り組むとすれば、原子力エネルギーや自然エネルギーへのシフトに本腰を入れる必要があります。実際、中国、ロシア、インドなどでは原子力発電所が急速に増えています。

 日本の原子力発電技術は世界一ですが、被爆国としての立場や、核拡散防止条約で日本の技術を安易に海外へ移転するのが難しいという側面もあります。ここも外交戦略が求められるところです。

―大臣が担当される男女共同参画などの分野では、アジア地域での日本のリーダーシップに期待が寄せられているようですね。

上川 アジア太平洋地域での日本の役割を考えるとき、福田シナジー(共鳴)外交がとりわけ重要となります。男女共同参画や人身売買などの人権問題は、国境を超えた共通課題です。日本がリーダーシップをとって、技術・ノウハウ・人材育成に貢献すべきでしょう。昨年12月、インドで開催された〈東アジア男女共同参画担当大臣会合〉で、そのことを強く実感しました。

 アジア太平洋地域での共通課題で日本が貢献できる分野としては、@環境・エネルギーA感染症対策B防災C人身売買などが挙げられます。私個人としては、人として看過できない人身売買の問題を真っ先に取り上げたいところです。

 

静岡の地域経済が持つ強みと国際競争力

―経済についてうかがいます。内需拡大が重要といわれる中、依然、都市と地方、大企業と中小零細企業の格差が縮まりません。

上川 確かに、大企業では今年の春闘で給料UPが実現しそうな勢いですが、地方の中小企業には、人件費を厚くする余裕がありません。地方経済の活性化は政治の大きな課題です。

 愛知県を中心としたここ東海ブロックは、順調な経済成長を見せ、若い働き手が流入するなど活気を呈しています。静岡県も、第二東名や静岡空港や港湾インフラの整備に国の支援が投入されています。公共事業が厚い分、成長が期待できる分野が牽引役となって、さらなる成長を実現してほしいと思います。

 静岡市では、サンダルやプラモデルなどの地場産業が、ジャパンブランドとして国際舞台に打って出ています。また健康長寿社会に向けた機能性食品の開発などをテーマにした〈フーズ・サイエンスヒルズ〉構想が、産学官の連携で進展しています。

 農業分野でも、新エネルギーとしてのバイオマスの振興、花卉類の癒し効果の研究、花粉症効果が期待されるお茶・べにふうきの本格的な生産体制づくりなど、国際競争力もある高レベルの研究を進め、博士号を持つ優れた人材が活躍できる環境づくり=ポストドクターにも期待しています。

 いずれにしても、日本の経済は、輸出依存の構造から内需拡大へと大きな転換をはかる時期に来ています。少子化対策を推進し、皆さんの子どもを持ちたいという希望をかなえることができれば、その結果として、経済・文化・社会によい影響がでます。この対策を地道に、着実に進展させなければなりません。

 

50年・100年先の国の姿から見る「いのちの原点」

―大臣のお仕事も、それだけ重く、価値あるもの、というわけですね。

上川 先日、江戸東京博物館で葛飾北斎の浮世絵を鑑賞しました。江戸の市井の人々の暮らしが生き生きと描かれ、思わず見入ってしまいました。大工の道具や木遣りの纏などは、今のものと変わりありません。時代や風景が移り変わっても、人間の歴史というのは、一つ一つの積み重ねの上に成り立っている、ということを深く感じました。 政治家は、過去を検証し、未来を見据え、少なくとも50年から100年先のこの国の在り様を判断する使命があると思います。少子化対策には、とくにそういう長期的視点が求められます。

 政治の世界は一寸先が読めないなどと言われることもありますが、今の私は、このことをしっかりと胸にとめ、大臣としての責務を果たしていきたいと思っています。

―ありがとうございました。

(インタビュアー/鈴木真弓 コピーライター・「情熱だより」編集員)

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