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かみかわ陽子

私の意見

国の約束について

情熱だより2003年3月号巻頭

小泉政権の失速を指摘する声が高まっている。たしかに郵政民営化や高速道路問題など、政府の結論が曖昧だったり、問題先送りと受け取られかねない事例がこのところ目に付く。こうした中で特に懸念されるのは、政府の公約がなし崩し的に破られる結果、国に対する国民の信頼が大きく損なわれているのではないか、という点である。

古くは紙くずと化した太平洋戦争当時の「戦時国債」から、最近のペイオフ実施再延期まで。国民は国にだまされた経験を決して忘れない。信用はいったん失われるとその回復がきわめて困難であり、それだけに国は実現できない約束をその場しのぎで国民にすべきではない。

にもかかわらず、いまだに「2005年まで」のデフレ脱却や「2年以内」の金融機関の不良債権処理完了といった空手形を連発し、金融市場や民間エコノミストたちの不信を招いている。むしろ、問題克服には相当の時間を要し痛みを伴うことを率直に説明し、国民に理解と覚悟を求めることが大切ではないのか。

そうした中で今年は年金制度改革にとり正念場の年である。これまで財政再計算のたびに給付を減らし、負担を増やしてきたことが、若い世代の不信を招いてしまっている。個人の納付意識に依存する国民年金では、未納者の増加から国民皆保険の枠組みが崩れるおそれもある。こうした危機的状況を克服するためには、国が国民との約束を厳格に守ることが何よりも大切であり、その上で国民にコスト負担(財源)を求めていく姿勢が明確でなければならない。他方、国民の側も、「払った分が戻ってこない」との損得勘定ではなく、納付義務をしっかり果たさなくてはならない。

政府による約束遵守と国民の義務履行、これら両者の緊張・信頼関係を今一度回復することが、今日の日本にとって何よりも必要ではないか。とりわけ国の側にそうした確固たる信念がないかぎり、消費税率引き上げといった痛みを国民に求めることはそもそも無理な話である。空手形を乱発し国民を惑わす姿勢は厳に慎まなければならない。

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