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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

財団法人市川房枝記念会出版部発行 「女性展望」 2008年1月号

男女共同参画担当大臣 上川陽子さん

課題には前向きな努力で

 

国会開会中の07年11月30日、銀杏が黄色に染まった霞が関第4合同庁舎7階の大臣室に上川陽子内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画)を訪ねた。大臣室は花々で彩られ,地元静岡名産の下駄や日本酒も飾られていた。

聞き手・山口みつ子(本誌編集発行人)

 

男女共同参画に「前向きに」取り組む

―― 2005年の総務大臣政務官就任に続き、07年8月に内閣府特命担当大臣に就任されました。00年に衆議院議員に初当選されてから、比較的早く大臣になられましたが、その時どのような抱負を持たれましたか。

上川  04年、自民党結党50年の節目の年に党の女性局長として少子化問題に取り組み、全国の女性党員の皆さんとの政策対話を通じ「子どもハッピープロジェクト」を推進しました。その時の活動の成果を大臣として実効ある政策として実現していきたい。特に子どもの問題は、女性の生き方、働き方と密接な関係があるので、この問題を頑張っていきたいと考えました。

 

――  今回は少子化対策・男女共同参画と、2つの分野を担当されますね。

上川 少子化対策、男女共同参画に加え、青少年の育成と食育の4つを担当しています。男女共同参画については、男女共同参画社会基本法が1999年に施行されました。女性が社会の中で責任ある担い手として活躍するという大きな流れが後退することがないように、力を尽くしていきたいと思いました。しかし、なかなか社会全体が男女共同参画となっていないこともあり、一直線に進むということが難しい部分もあります。だからダメだと考えるのではなくて、乗り越える課題があればあるほどいろいろと知恵も働く、乗り越えていくチャンスなんだとポジティブに考えていきたいと思います。

――   07年10月の福田総理の所信表明演説で、明確に「男女共同参画社会の実現」と言われました。

上川 「女性も男性もすべての個人が、喜びや責任を分かち合い、個性や能力を発揮できる『男女共同参画社会』の実現に向け、取り組みます」という言葉ですが、総理は所信でしっかりとしたメッセージを述べられました。この国の方向性について大きなメッセージとして出されたことがすごく大事ですね。

――  基本法ができてから男女共同参画の推進が順調に進んでいると思った時期もありましたが、依然としてバックラッシュの問題があります。

上川 バックラッシュとは後退しているということですね。男女共同参画の方向を目指しながら、活動している中で皆さんが後退していると感じるということは問題だと思います。「ジェンダー」という視点についての理解が、社会的にも国会内でもまだまだ不十分だ、あるいは「ジェンダー」に対するコンセンサスが社会全体でできていないという点をバックラッシュと捉えて心配されているのではないでしょうか。 

しかし、前進していく時には、いろいろな考えがぶつかり合うのは当たり前のことで、それに目を背けることなく、前向きな努力をされている方々を応援するというのが私の仕事だと思っています。

 

選択的夫婦別姓について

――  ところで、選択的夫婦別姓はどうして実現しないのでしょうか。

上川 私も選択的夫婦別姓については賛成で、そのために議員として活動してきました。この件については世論調査もあり、さまざまな要望もあります。また、家族制度や結婚についての考え方、あるいは女性の社会の中での位置、役割等が変化しています。ですから、それぞれの時代にふさわしい形で、法律を見直していかなければならないと思っています。最近、通称制度はかなり広く使用されるようになりましたので、そうした動きが進展してくると、選択的夫婦別姓の動きも自然に前進していくのではないでしょうか。やはり社会の意識が「熟していく」ことはとても大事なことだと思うのです。

――  世論調査では少しずつ選択的夫婦別姓の方向に動いているのではないですか。

上川 数値的には賛成の声も少し高まっていますが、同時に反対の声も少し高まっています。問題は、夫婦が違う姓の時に、子どもがどうアイデンティティーを持つかというところが一番心配されますね。家族についても、結婚についてもよく考えていただかなければいけないし、別の人格として生まれてきた子どもたちに対し、保護者としての義務もしっかり果たしていかなければなりません。また、子どもは言葉を発しないけれども、一人の人格として子ども自身の声を大事にしていきたいと思っています。

――  日本では子どもを自立させるという考え方より、庇護するという考え方のほうが強いのではないですか。

上川 今度、青少年育成施策大綱が見直されます。子どもはその成育段階に応じて親の愛情の下で、遊びや学びを通して生きる力や生活習慣を身につけることが大切ですが、そのバランスが少し崩れているのではないかと心配になります。年齢的には親の庇護から自立し、巣立ちをする時期なのに、その準備ができないままにその年齢が来てしまう。そこにギャップというかアンバランスが生じているのではないか。親の保護を徹底して受けている子どもは自立する時期になった時にしっかりと自立ができる。そのための社会環境はどうあるべきか真剣に考えていく必要がありますね。

 

調整機関としての内閣府

――   話は変わりますが、男女共同参画会議は各省への調整能力があり、勧告をすることができますが、有効に機能していると思われますか。つまり、調整機関という役割の視点でうかがいたいのですが。

上川 内閣府の機能は、省庁横断の総合調整という機能なんですね。例えば女性の参画が少ない科学技術の分野における教育については文部科学省の範疇です。卒業後の女性の就職活動については厚生労働省です。企業での研究開発の分野になれば当然経済産業省が関わるというように、それぞれの省にそれぞれの役割があるわけですが、女性に関する個々の問題を串刺しにしたテーマについては、内閣府の責任の下に役割を果たしていきます。

――  縦割り行政を横にして、かつ権限を持たせられているのですね。

上川 現在政府では、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス〉の憲章及び行動指針を取りまとめ、国民運動として展開していく方針です。内閣府が中心となり厚生労働省や経済産業省、文部科学省その他、各省庁、さらに労使双方の代表機関とも連携をとりながら検討し、体制づくりをしています。先頃、男女共同参画推進連携会議(えがりてネットワーク)を開きました。男女共同参画社会づくりに関し広く国民各界各層との情報および意見の交換、その他の必要な連携を図り、男女共同参画会議と協力しつつ、男女共同参画社会づくりに向けての国民的な取り組みを推進するためです。こうした場でワーク・ライフ・バランスについても、現状を報告し、きめ細かな運動が展開できるように協力体制を充実していくことが大事だと思います。

――  今、 文部科学省所管の独立行政法人、国立女性教育会館(ヌエック)と青少年教育振興機構との統合問題があります。女性たちはヌエックを独立して活かしてほしいということを言っていますが、大臣のお考えはいかがでしょうか。

上川  独立行政法人の整理合理化計画というのがありますね。その中で事務事業をゼロベースで見直すこととしています。ヌエックの場合は設立以来30年、多くの女性団体等の協力のもと、女性教育の振興と家庭教育支援の充実に取り組まれ、男女共同参画の推進に大きく貢献してこられました。これまでの成果を活かしつつ、今後とも女性教育のナショナルセンターとして大きな役割を果たされることを期待していますし、また今後アジアにおける男女共同参画の拠点としての役割も期待しています。そのことを自信を持ってしっかりと主張していただきたいと思います。

 

議員として言行一致の活動を

――  07 年は統一地方選挙があり、参議院選挙がありました。そこで有権者は1票を投じたのですが、政治家に対して不信感を抱いている人が多い。上川大臣は、国会議員として政治家の信頼を有権者から得るということはどういうことだと考えていらつしやいますか。

上川  「言行一致」。つまり、言ったことには自分で責任を持つことが大切と考えています。しかし言ったことが自分の能力で実現できないこともあります。その場合は理由をはっきり説明し、理解をしていただく。あるいは理解をしていただくように説明努力を尽くす。私自身、そうした姿勢で対話のためのミニ集会を続けています。触れ合いをしながら、私の考え方や行動のすべてを見ていただく。どこから見ても矛盾していない、つまり嘘をついていない、信頼できるという姿をいろんな角度から見ていただいています。

 

――  米国のハーバード大学で勉強されたことがありますね。日本の政治との違いを感じられましたか。

上川 留学中、大統領選挙にボランティアで関わったり、上院議員の事務所で活動しました。アメリカで私がお世話になった先生は民主党の上院議員で、彼の下の政策スタッフには弁護士の資格を持っている人も多くいます。そうしたスタッフの経費はすべて公費です。それぞれが役割を持っていて、全体が政策づくりのマシーンになっているわけです。彼らは、議員の政策そのものをつくります。議員立法ですね。またアメリカでも選挙にはとてつもなくお金がかかるので、資金力も候補者の大切な要件の一つです。集金能力と言われますが、国民は次のリーダーになる人に対して期待感を込めて応援し、パック(PAC)という小さな単位で出資し、一人ひとりが政治参画をしていきます。自分たちの中からリーダーを立てていくのだという気持ちですね。

――   日本でも公設秘書2人のほかに政策秘書が1人、公費で置かれるようになりましたが、政策研究にはスタッフも調査も必要です。政治活動と選挙にお金がかかり、今一番問われているのは、政治とお金の問題ですが、どうすれば有権者の不信感を払拭できると思われますか。

上川 広く国民の皆さんから資金カンパも含めて政治活動の応援をしていただくことは大切なことです。政治資金規正法に則って適切に処理し透明性を高めていくことは政治家の政治姿勢のバロメーターでもあり、信頼の大前提であると思います。

――  最後に上川さんの座右の銘をお聞かせください。

上川 「鵬程万里」(ほうていばんり)という中国の言葉を座右の銘にしています。鵬(おおとり)は一日に遠大な道程を飛びます。高い志を持って過去と将来をよく見渡しながら、皆さんのために努力していくという意味も込められていると思います。足下の石は取り除かなければいけないけれど、遠い将来遭遇することになる大きな石も見ていかなければいけない。あまり目先の現実にとらわれすぎると全体が見えなくなる。先を見れば見るほど今何をしなければいけないかという優元順位も決まってきます。

――  上川さんのおっしゃる「前向き」という言葉のルーツがわかりました。是非今の志を活かして、私ども国民のためにも一層努力をしていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

( 07.11.30 於大臣室 )

 

上川陽子(かみかわようこ)氏

1953年静岡市生まれ。東京大学(国際関係論専攻)、ハーバード大学ケネディスクール(政治行政学修士・フルブライト奨学生)卒業。三菱総合研究所研究員、ボーカス米国上院議員政策立案スタッフを経て00年衆院議員に初当選、現在3期目。

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