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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

(社)被害者支援都民センター「センターニュース」 20号(2006年11月30日)

2006年9月15日 シンポジウム 基調講演

「犯罪被害者等基本法から新たなステージへ」

衆議院議員 上 川 陽 子

 

 

 

皆さん、こんにちは。ただいまご紹介いただきました衆議院議員の上川陽子です。本日は平成 18年度犯罪被害者シンポジウムにお招きいただき、大変光栄に存じます。

犯罪は依然として後を絶たず、それどころかますます深刻化している昨今です。飲酒運転のためお子様を三人亡くされたご両親の心痛を思うと、新しい被害者が毎日のように生み出されている事態をなんとかしなければならないと思うのは、私 1人ではないと思います。また、いつ、どこで、だれが被害に遭うかわからないという意味で、被害者だけの問題にとどまらず、私たち自身の問題でもあります。このことを国民一人ひとりが自覚し理解を深めていかなければなりません。そして犯罪被害者のための施策と新たな被害者を生み出さないための対策を、力を合わせて進めていかなければなりません。

犯罪被害者とその支援に携わってこられた皆さんのおかげで、平成16年12月、犯罪被害者等基本法を議員立法のかたちで成立させることができました。さらに昨年12月28日の閣議で、犯罪被害者等基本計画が決定されました。すでに基本計画に則り、各省庁が実行できることはただちに実行に移し、残された難しい問題については継続して鋭意議論を進めています。これまでは民間の皆さんが中心になって引っ張ってこられたわけですが、基本法の成立が大きなきっかけになり、現在は国も地方自治体も熱心に取り組みを進めています。今後、国や地方自治体、マスコミ関係者、さらには国民一人ひとりが基本法の理念に沿って、この問題の解決に向け努力を積み重ねなければなりません。

今日は、「基本法の成立から新たなステージへ」というテーマでお話します。基本法の成立以降、現在までの国政における取組み状況について、私が特に留意している点を中心にお話いたしますが、皆さんからもご意見や色々なアイデア等をお寄せいただければと思います。新たなステージへのプロセスにもこれまで通り皆さんにぜひご参加いただきたい、という思いをこめて報告いたします。

犯罪被害者は、生命や財産を奪われたり傷害を負わされる、あるいは精神的被害や二次被害に大変ご苦労されています。また社会の中で孤立している被害者も少なくありません。全国には犯罪被害者への支援に手厚く取り組んでおられる地域や地方自治体もありますが、まだまだのところが多いのが実情です。犯罪被害者に対する関係機関からの情報提供、経済的支援、あるいは精神的ケアなどはこれまで十分行われていませんでしたし、被害者の権利も守られていませんでした。

そこで犯罪被害者を保護し支援する国の施策を、関係省庁が横断的かつ総合的に実施するために、犯罪被害者等基本法が制定されました。基本法は、被害者を元の状態に回復することはできないまでも、原状にできるだけ近づけ社会の中で元気に生活していけるよう、犯罪被害に遭った直後から国が必要な支援の手を切れ目なく差し伸べていくことが大切である、という考え方に立っています。また、縦割り行政の弊害から被害者を守ることも基本法の狙いの一つです。すなわち、犯罪発生直後の捜査段階では警察、裁判手続が始まると法務省、医療や精神的なケアの面では厚生労働省、さらにお礼参り等の不安のため一時避難や生活の場を移さざるを得ない場合には国土交通省といったかたちで、管轄する官庁が異なります。こうした縦割り行政のはざまで被害者がたらい回しされることを避けるには、何よりも被害者の視点に立って支援・サービスを切れ目なく受けられるようにすることが必要です。基本法には、省庁横断的な組織を国の中にしっかり作り、国が責任をもって取り組まなければならない、と定められています。

犯罪被害者問題の検討に着手した当初の段階で、私は被害者のための総合的施策のあり方や基本法の制定を提案しました。その後、党の中に基本法PTを立ち上げ、事務局長を務めることとなり、その成立に向けて取り組みました。その間、岡村先生はじめ犯罪被害者の皆さんの声をうけ、基本法の中に犯罪被害者の「権利」という新しい概念を盛り込むよう努力しました。結局、犯罪被害者は人間的尊厳にふさわしい処遇を保障される「権利」を有する、という表現が激しい議論の末、法律に盛り込まれることが決まったのは、法案提出の直前だったのです。

その後、省庁横断的な施策を基本計画として作り上げる作業が、約9ヶ月という短期間に行われました。これには犯罪被害者の代表者も参加され、大変密度の濃い真摯な議論を経て、最終的に258項目を盛り込んだ基本計画が策定されました。こうした政府の検討会と並行する形で、自民党内でも司法制度調査会および犯罪被害者保護救済特別委員会の合同会議を随時開催し、犯罪被害者の皆さんからご意見もいただきながら、党と政府が両輪となって取り組んで参りました。

もちろん258項目で全てというわけではありません。過去の議論の中で見逃した視点や予想もしなかったような新しいタイプの犯罪も発生していますので、私ども自民党の合同会議では新しい項目も俎上に載せられるよう常にオープンに議論しています。また被害者のニーズに対するきめ細かな対応については、政府等の動きを絶えずフォローし、検証していく役割も担っています。すでに基本計画258項目のうち約8割は実行ずみです。実は昨日、自民党の合同会議において来年度予算の検討が行なわれましたが、基本計画に係わる継続予算については最大限確保するとともに、新規施策についてもニーズにきちんと応えられるよう十分な予算を確保することを確認したところです。

被害者支援の問題は多岐にわたるため、基本計画には経済的支援、支援のための連携、民間団体の援助をテーマとする三つの検討会の設置が定められています。たとえば、被害者および遺族への補償の充実や支援団体への援助などについては、経済的支援に係わる検討会で議論されています。また支援団体相互のネットワーク、あるいは国・地方自治体の体制整備など支援体制に関する問題については、支援のための連携に係わる検討会で議論しているところです。

これらの検討会は内閣府におかれ、今後 2年以内に結論を出すこととされていますが、いずれのテーマも重要かつ緊急を要するだけに、なるべく前倒しして早く実施の方向性が出せるようご議論いただきたいと思っています。検討会のメンバーには有識者のみならず被害者、あるいは団体の代表にもお入りいただき、それぞれの代表としてのご意見と同時に、個人の立場でも率直に発言していただいているそうです。党の方でも絶えず検討会と同じ歩調で、あるいはそれに先んずるかたちで検討を進めていきたいと思っています。

ところで私ども自民党では昨日、合同会議を開きまして、経済的支援に関する検討会の座長である國松様にお来しいただきました。今はまだヒアリングが終わった段階で、専門家の議論はこれから本格的に始まるということでしたが、私からは検討会としての取組み姿勢とか、これからどういう方向でどういう内容について議論していくかについて、早い段階でお出しいただくようお願いしました。今の予定ですと、経済的支援については、来年の春先ぐらいまでに中間報告をまとめる予定だそうです。今後12月くらいまでに色々な論点について集中的に議論し、方向性を煮詰めた上で中間報告を目指したいとのことでした。

なお、検討会のテーマではありませんが、マスコミによる過剰取材や警察の匿名実名発表に関する問題についても合同会議でフォローして参ります。また付帯私訴や訴訟への参加など刑事司法手続への関与については、基本法に「拡充」という文言を書き込みましたので、法務省としてはそれにふさわしい取り組みを行なう責任があります。このうち司法手続については、基本計画に盛り込まれた項目がそのままのかたちで法制審議会へ 9月に諮問されることとなっており、法制審議会では新たなチームで議論をスタートされるということです。白紙の状態から議論を積み上げていくご方針とのことですので、委員の皆さんには色々な立場からの意見を俎上に載せ、よりよい制度作りにご尽力をお願いしたいと思っています。この問題には、特に杉浦法務大臣が大変力を入れて取り組んでおられますので、法制審議会としてもできるだけ早い時期に法律に仕上げて新たな制度が実施できるようにしていこうということのようです。政治の立場からも政府と両輪となって努力していきたいと思っています。

犯罪被害者の問題は、これからいよいよ大事な段階を迎えます。基本法はできました。基本計画もできましたが、今後検討すべき課題はどのテーマをとってみても、大きな議論が必要になります。そうした議論の輪の中で、私も基本法の推進を図るPTの座長として積極的に発言していきたいと思っています。

その際、特に4つの点を視野におきながら取り組んでいくことが大事だと思っていますので、そのことについて次に申し上げたいと思います。

第一には、犯罪被害者の皆さんのご要望は、犯罪の性格によっても、また家族の置かれている状況によっても異なり、そうした点を考慮しながらお一人おひとりへの温かな支援を行っていくことが必要であるということです。問題を抱えながら必死に頑張っていらっしゃる被害者を、どこまで丁寧に支援していくことができるのかが問われています。殺人や酒気帯び運転による交通事故等、色々な犯罪の被害に遭われた被害者の方に、きめ細かなケアが必要であることは言うまでもありません。また被害者の中には、初期支援の段階から時間が経った後、改めて追加的な支援の求めなくてはならなくなる方もいらっしゃいますので、そういう要望についてもしっかりフォローしていく必要があります。そういう意味では、切れ目のない支援というのは言葉で言うことはたやすいけれど、実のあるものにしていくためには知恵と工夫と協力が必要です。このことも検討会の中で十分議論していただくことになろうかと思います。

第二の点は、議論の透明性を最大限確保したい、ということです。基本法が制定できたのも、それまでの議論のプロセスに犯罪被害者の皆さんが参加していただいたことが大きな要因ではなかったかと思います。皆さんに議論に参加していただくことが、よりよい制度作りに繋がるという考え方でこれまで取り組んできましたし、これからも具体的施策、あるいは新しい課題について同じようなやり方で取り組んでいくことが大切だと思っています。

透明性の確保ということに関し、もうひとつ重要な点は情報公開ということです。すでに基本法に則り専門委員会や審議会で議論したことは、できるだけ早くホームページ等でその内容を全て公開するようにしています。国民参加で制度を作り直していく、あるいは被害者の皆さんの声にきちんと応えていく、さらには社会のあり方について問題提起をしていく。そのためには、法制審議会や党の合同部会で随時報告を重ね、国民にも広く情報を公開することにより、中間報告や最終報告を取りまとめる段階で新たな論点が突然出てくるといったことのないよう、念には念を入れて取り組むことが大切と考えています。

第三の点は、支援活動のための財源確保の問題です。この都民センターは東京都から財政的な支援を受けながら運営されていますが、支援活動にあたっては当然そのための財源が必要です。しかし今の国や地方自治体の財政状況を考えると、財源の確保はなかなか厳しい問題です。様々な支援をきめ細かく実施するためにいかに財源を確保するか、これこそが政治の責任ではないか、と私は考えています。自民党では、具体的な方策について目下議論していますが、罰金の活用や新しい犯罪被害者基金の創設、あるいは各団体やグループがカンパや寄付で集めた民間からの援助などを活用するような柔軟な仕組みを工夫できないかなどを検討しています。こうした具体的な制度設計についても、できるだけ皆さんのご意見等を伺う考えですし、積極的に提案していただけたらと思っています。

そして第四の点は、地方自治体の協力が不可欠ということです。地方自治体は色々なレベルで身近な生活に関わっていますが、実態調査をしてみると取組み状況には北海道から沖縄までかなりバラツキがあります。どこで犯罪に遭ったのかによってその後のフォローに差が生じてくるということはあってはならないことですので、各地方自治体に協力をお願いするとともに、国も地方自治体と連携しながら取り組んでいくことが大切です。しかしこの点は国としてかなりの努力が必要だろうと思っています。

最後になりますが、犯罪被害者問題への取り組みは、すでに基本法および基本計画の制定・実施の段階から次の段階へと移っています。現在、内閣府の検討会で議論していることは、基本計画の枠組みでは対応できない困難な課題であり、新たにそのための仕組みを作らなければ解決できない課題です。そのため基本計画においては、検討会でいつまでに結論を出すかが明記されました。そういう意味では、基本法に至るまでの長い年月、ご努力をいただきました皆さんに今一度勇気を振り絞っていただき、第二段階へ向けての取組みに是非ともお力を結集していただかなければなりません。

犯罪被害者ではない立場の私が、どこまで皆さんのお気持ちになって活動できるのか、これまで絶えず自問自答しながら活動してきました。この自問自答を繰り返しながら、これからも皆さんのお気持ちにしっかりと沿うことができるよう精一杯頑張りたいと思っています。そうした私の決意をこの場で改めて申し上げ、講演の締めくくりとさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。これからもよろしくお願い申し上げます。

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