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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

月刊誌「都市問題」(東京市政調査会発行) 2006 年 3 月号掲載論文

 

少子化に国政はどう取り組むのか

衆議院議員 上 川 陽 子

はじめに

日本の人口は、高齢化の進行に伴う死亡者数の増加トレンドと、いわゆる少子化による出生数の減少トレンドが交錯し、 2005年ついに減少に転じた。これは政府のこれまでの予想より2年ほど早かったとのことである。今後、日本の人口減少がますますテンポを速めていくことは避けがたく、すでに中長期的な総人口減少時代の只中にあるといっても過言ではない。戦争や大飢饉・疫病といった一過性の理由によらない持続的人口減少は、長い歴史を有するわれわれ日本人にとってもはじめて経験する未曾有の国難といえよう。

これまで合計特殊出生率( 1人の女性が生涯に生む子ども数を示す)は、1974年以来30年間、総人口を維持する水準(人口置換水準)とされる2.08を一貫して下回り続け、2004年には1.29と過去最低を記録した。現在の人口構成からみて、今後数十年間にわたりわが国の総人口や生産年齢人口が減少し続けることは避けられないとしても、それを少しでも緩和し、長期的にバランスのとれた人口構造に導いていこうとすることは政治の本来的役割であり、そのための迅速かつ実効的な少子化対策はわが国の喫緊の政策課題でもある。

I. 少子化問題への取り組みの流れ (図1参照)

(i) 出遅れた「少子化問題」への取り組み

わが国では、 1970年代からすでに少子化問題が指摘されていたにもかかわらず、政府は出生率の低下や子どもの数が減少傾向にあることを「問題」として認識し、子育て支援のための対策作りに取り掛かったのは、いわゆる「1.57ショック」がきっかけとなった1990年以降のことであった。

1990年、「1.57ショック」を受けて国は、「健やかに子どもを産み育てる環境づくりについて」(健やかに子どもを生み育てる環境作りに関する関係省庁連絡会議)を発表し、1994年12月には「今後の子育て支援のための施策を基本的方向について」(エンゼルプラン)を策定した。これにより、保育サービスの充実への取り組みが開始された。さらに、1998年には「少子化に関する基本的な考え方」(厚生省人口問題審議会)、「夢ある家庭づくりは子育てができる社会を築くために(提言)」(少子化への対応を考える有識者会議)を提言し、翌1999年12月には総合的な少子化対策として「少子化対策推進基本方針」(少子化対策推進関係閣僚会議)を閣議決定し、子育てと仕事の両立支援を内容とする新エンゼルプラン(2000年から2004年までの5ヵ年事業)を策定した。

さらに、少子化の一層の進展を背景に、 2003年3月には、「次世代育成支援に関する当面の取り組み方針」(少子化対策推進関係閣僚会議)を閣議決定し、少子化の流れを変えるためにもう一段の対策を推進するため同7月「次世代育成支援対策推進法」を制定した。その内容は、従来の子育てと仕事の両立支援に加え、@男性を含めた働き方の見直し、A地域における子育て支援、B社会保障における次世代支援、C子どもの社会性の向上や自立の促進を柱としている。

(ii) 過去10年間の少子化対策は少子化の歯止めとならず

2004年度に最終年度を迎えた新エンゼルプランまでの10年間、政府は立て続けに少子化対策が講じられてきたが、結局少子化の進展に歯止めをかけることはできなかった。むしろ歯止めどころか、1994年の合計特殊出生率1.50、出生数1,238千人からスタートし、途中、合計特殊出生率が一時的に反転したり、出生数が増加した年も皆無ではなかったが、2004年の合計特殊出生率1.29、出生数1,111千人といずれも過去最低を記録したことからも明らかなように大幅な後退であり、エンゼルプランや新エンゼルプラン等これまでとられた対策が不十分であったことを意味している。

その背景には次のような事情が存在し、その結果、国民にとっては子どもを生み育てやすい環境の整備が進んだという実感を持ち得ない状況に変わりない。

•  子育て期の親の働き方に問題

30歳代男性の4人に1人は週60時間以上就業しているなど、子育て期の父親が子どもに向き合う十分な時間を持つことができない働き方をしており、その結果、子育ての負担が女性に集中していること。また、育児休業制度など子育てと就業の両立を目指した諸制度も十分活用が進んでいないこと。

•  地域における子育ての孤立状態が解消されず

保育所待機児童がなお相当数残存しているほか、地域共同体の機能が薄れつつある中で、一時保育や地域子育て支援センターなど子育てを支える地域サービスも十分に行き渡っていないこと。その結果、親が孤立した状態で子育てしている場合が少なくないこと。

•  自立した生活ができない若者が増加

雇用が不安定だったり職に就けない若者が増加するなど、若者が社会的に自立し、家庭を築き、子どもを生み育てることが難しい社会経済状況。

(iii) 2003年2月:議員立法による「少子化対策基本法」の制定

しかし人口構成をみると、 2010年頃までは20代後半から30代前半の女性の人口がそれでもまだ多いのに対し、その時期を過ぎれば少子化対策も決定的に手遅れとなってしまう。その意味でこれからの5年間が極めて重要な時期である。そうした強い危機感から2004年(平成16)には、議員立法による少子化対策基本法が制定され「少子化社会対策大綱」が定められた。

それまでの取り組みが政府主導であり、各省庁が縦割りの中での努力であるのに対し、議員立法による基本法の制定は政治主導の形でさまざまな制約を乗り越える画期的な試みであった。その大綱は、わが国の人口が減少への転換期を迎えるこれからの 5年程度のうちに国の最優先課題として、子どもが健康に育つ社会、子どもを生み、育てることに喜びを感じることができる社会を構築するために、政府全体として実施すべき集中的な取組を明示している。2005年度からは、「子ども・子育て応援プラン」の着実な実施とともに、少子化社会対策大綱のフォローアップや各種少子化社会対策の推進状況を検証・評価していくことが求められている。

(iv) 政治主導の加速化

政治主導の動きは、さらに「骨太方針」に少子化が盛り込まれたことでも明らかである。昨年6月 21日、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」、いわゆる2005年度「骨太方針」が閣議決定されたが、その中に次のような少子化への取り組み方針が盛り込まれた。

●次世代の育成(少子化対策)

人口減少社会を目前に控え、家庭・家族、地域の役割を重んじ、その連携を通じて、国民が安心して、子供を生み、育てることができる社会を構築するため、国の基本政策として少子化の流れを変えるための施策を強力に推進する。特に、仕事と家庭・子育ての両立など仕事と生活のバランスを取りつつ、意欲と能力に応じた多様な働き方ができるよう、中小企業に配慮しつつ、環境整備の推進などを官民挙げての国民的な運動として取り組む。

また、女性の再就職・起業等についての総合的な支援策を検討するため、関係閣僚による「女性の再チャレンジ支援策検討会議」(仮称)を設置し、平成 17年中に「女性の再チャレンジ応援プラン」(仮称)を取りまとめる。また、短時間勤務等の多様な働き方の選択肢を拡大するため、国家公務員がモデルとなるよう常勤職員の短時間勤務制度の導入について早期に検討する。あわせて、以下の取組を進める。

•  閣僚・有識者等が連携して取り組む体制を整備し、「少子化社会対策大綱」及び「子ども・子育て応援プラン」のフォローアップ等を行い、その着実な実施を図るとともに、同プランに掲げられた課題の検討を進める。

•  社会保障の一体的見直しの中で、高齢関係給付の比重が高い現在の社会保障制度の姿を見直すとともに、社会保障の枠にとらわれることなく少子化対策の推進を図る。

•  「次世代育成支援対策推進法」等に基づく企業の取組状況の開示を進める。

 

   (v) 骨太方針2005により多方面の動きがようやく活発化

「骨太方針 2005」に基づき、「子育て支援官民トップ懇談会」が発足し、ここでの議論も踏まえつつ、今後は仕事と家庭・子育ての両立や働き方の見直しに関して官民あげての国民的な運動が展開されていくことになろう。

さらに、 2005年10月には、少子化社会対策会議の下に、関係閣僚と有識者から構成される「少子化社会対策推進会議」が開催され、「少子化社会対策大綱」及び「子ども・子育て応援プラン」のフォローアップや、応援プランに掲げられた課題について検討を行い、少子化社会対策の戦略的推進を図ることとされている。

一方、同年7月、男女共同参画推進本部(本部長:内閣総理大臣)の下に「女性の再チャレンジ支援策検討会議」が設置された。現在、同会議では、「女性の再チャレンジ応援プラン(仮称)」の取りまとめに向けて、子育て等により一旦退職した女性の再就職・起業等に係る総合的な支援策について検討を進めている。また少子化対策を戦略的に対策を推進していくため、内閣府に「少子化対策推進室」を設けることとなった。

以上が 1990年の「1.57ショック」に端を発し、現在に至るまでの約15年にわたる少子化問題への取り組みの沿革である。

<図1> 

平成 17 年版 少子化社会白書

II. 各種統計データが示唆する少子化対策の方向性

次に少し視点を変え、少子化のための国の政策努力が果たして実効(出生率の向上)を挙げることが可能かなのかどうか、といった点を諸外国の成功事例を元に確認しておきたい。わが国においてはこの点について悲観論を聞く機会が多いが、決して悲観すべき段階ではなく、むしろより本腰を入れて取り組むべきとの基本姿勢を強調しておきたい。

(i)少子化対策への財政支出規模と出生率向上の相関性

財政支出と出生率との間にどのような相関関係があるのだろうか。最近の研究によれば、家族政策への財政支出の違いが出生率に影響を及ぼしていることが知られている。図2のように、GDPに占める子ども・家族政策への支出の比率が高い北欧やフランスなどは出生率も相対的に高い。これに対し、同比率が低い日本などの国々は出生率も総じて低い。とりわけ日本は財政支出の比率がビリから 5 番目の低位にある。

この点に関連してわが国の財政支出の特徴について 1 点付言するとすれば、やはり図3で明らかなように、高齢者福祉に割かれる財政規模に比して出産・子育てに関する予算規模があまりに少ないことである。この点のアンバランスを多少なりとも見直すことにより、出生率向上に本腰を入れて取り組むことが強く求められる。

<図2>

内閣府経済社会総合研究所ウェブページ

家族政策と出生率 - スウェーデンの事例と日本への示唆 - ( 2004 年)

<図3>各国の家族政策に関する財政支出の規模(対 GDP 比)

平成 17 年版 少子化社会白書

(ii)女性の労働力率と出生率の相関性

次に、女性の労働力率と出生率の間にはどのような相関関係があるのだろうか。わが国ではこれまで女性の労働力率の上昇が出生率低下の原因と信じられてきた。しかし図4が示すように女性の労働力率が高い国ほど出生率の向上が最近の世界的傾向である。なかでも出生率が高いフランス、ニュージーランド、オランダといった国では、女性の労働力率の高さに大きな特徴がある。子持ちで仕事をしやすい社会になっている社会、あるいは家族政策が手厚い社会ほど、出生率の回復が著しいことが明らかである。

これに対し、日本では、女性の社会進出はかなり進んでいるが、子産み・子育て世代にあたるところでは離職率が非常に高く、社会復帰してもパートのような不安定な職しか就けないという状況。加えて、国の子ども・家族政策が貧弱であるため、これらがダブルで出生率を押し下げているのではないだろうか。

<図4>

内閣府経済社会総合研究所ウェブページ

家族政策と出生率 - スウェーデンの事例と日本への示唆 -   ( 2004 年) 

III. 今後少子化対策を進めていく上での留意点

社会全体で次世代の育成を効果的に支援していくため、児童手当等の経済的支援、地域や家族の多様な子育て支援、働き方に関わる施策など多岐にわたる次世代育成支援施策について幅広く検討することが必要である。

@個別の施策の見直し・改善

わが国は、子育て支援のメニューはそろっているものの、近年出生率が回復傾向にあるフランスやスウェーデン等のヨーロッパ諸国の児童・家族政策の内容と比較をしてみると、個々の施策では必ずしも十分な内容に達していないものもある。これまでの施策について総点検をして、財源の問題や、受益と負担に対する国民の合意を得ることに考慮しつつ、見直し・改善等の検討が必要である。

児童手当制度については、支給対象年齢、給付金額の水準、所得制限の有無などについて、フランス、スウェーデンなどの制度を比較すると、わが国は限定的な内容となっている。また、フランスの乳幼児迎入れ手当やイタリアの一時金制度など、児童手当以外の制度を持っている国もある。なお、児童手当等の各国比較のとおり、児童手当と税制を同時に拡充するよりは、どちらかに力点を置く傾向がある。児童手当制度の拡充には新たな財源を要するため、児童手当と税制との関係、子育て世帯に及ぼす影響と効果等についても検討する必要がある。

A子育て世帯の多様化に配慮した支援

経済社会や家族形態の変化とともに、子育て世帯の状況が多様化している。児童のいる世帯の状況をみると、三世代世帯の割合が減少し、母子世帯の割合が増えている。「平成 17年度版母子家庭就業支援白書」によれば、2003(平成15)年現在の母子世帯(父のいない児童(満20歳未満の子どもであって、未婚のもの)がその母によって養育されている世帯)の数は約122万5千世帯であり、5年前と比べて約28%増となっており、「国民生活基礎調査」(2003年6月)の全世帯数(45,800千世帯)の2.7%にあたる。同調査によると、母子世帯の1世帯あたりの年間平均所得金額は233万6千円であり、一般世帯(同589万3千円)、高齢者世帯(同304万6千円)に比べ、低い水準にとどまっている。母子家庭の自立支援は、母親のみならず児童の健全育成という観点からも重要である。

また、若年層の就業形態が変化している。パートやアルバイトは既婚女性だけでなく、若年男女においても主要な働き方になりつつあることから、「平成 17年版国民生活白書」によれば、夫婦の中で共働き世帯の割合は増えているものの、1990(平成2)年と比較をして「フルタイム同士」の夫婦の占める割合は減少し、「夫フルタイム・妻パートタイム」の夫婦が増加している 9 。さらに、「パートタイム同士」の夫婦も20代後半から30代前半の世帯全体の4〜5%に達している。パートタイム同士の夫婦では、2人の収入をあわせて20代で年収230万円強、30代でも年収280万円強である

  こうした例からもわかるように、子育て世帯の状況が変化・多様化してきていることを踏まえて、きめ細かな支援策が求められる。

B子どものライフステージに応じた支援

乳幼児の昼間の居場所をみると、0歳から2歳までは家庭保育が中心であり(0歳児では 96.1%、1歳児では83.1%、2歳児では75.5%)、3歳児以降では幼稚園及び保育所の割合が高まっている。4、5歳児では、約95%が幼稚園または保育所に通っている。こうした状況をみると、保育所の量的拡大ばかりでなく、0歳から3歳頃までの家庭保育に対する支援、たとえば地域における子育て支援サービスや安心して遊べる公園の整備、子どもへの犯罪防止など地域の治安の強化など、また、共働き世帯に対しては、仕事と育児の両立支援策の一層の充実が必要であり、さらには、幼稚園と保育所の機能を併せ持った総合施設の検討・推進や経済的支援策など、様々な施策を総合的に展開していくことが重要である。

C国民的な子育て支援運動の推進

(財)子ども未来財団が、妊娠中または3歳未満の子どもを子育て中の母親を対象に行った世論調査 10 では、 80%の女性が「子どもを産みたい、育てたいと思える社会ではない」と答えている。また、「子どもは社会の財産、社会全体で暖かく見守ってほしい」(87%)、「制度や設備が整うだけでは不十分。国民全体の意識改革が必要だ」(83%)、「子育てを応援する社会とは思えない。1日も早く改善してほしい」(77%)と、社会全体の育児支援に対する制度面ばかりでなく、意識面においても課題が多いことを指摘している。
 たとえば、育児休業を取りにくい理由として、社内において育児休業を取りにくい雰囲気があり、その内容として経営幹部や管理職が育児休業に否定的であることを挙げる人が少なからず存在する(日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」(2003年))。育児休業制度が「絵に描いた餅」とならないように、企業経営者が率先して従業員の育児休業取得促進に努力しなければならないことは言うまでもない。2005年4月から次世代育成支援のための行動計画が実施されていることも踏まえ、政府と経済界、労働界とが一体となって企業における子育て支援推進のための運動を推進することが重要である。

また、中小企業に対する重点的な支援策の検討など、今後とも希望する者すべてが安心して育児休業を取得できる環境の整備に一層取り組む必要がある。

D地方自治体における取組の推進

少子化問題は、国全体の問題であるとともに、地域においてはより切実な問題である。合計特殊出生率には地域格差があり、低下しているところが多いが、地域によっては、反転し上昇しているところもある。個別の施策がどの程度、出生率に影響を与えるかは判然としないが、地方自治体が、保育所の待機児童ゼロの取組をはじめ、多様な保育サービスの展開、NPO団体等による地域の子育て支援活動に対する助成、乳幼児医療費の負担軽減、子育て世帯の住宅取得促進、特別の手当の支給等、様々な施策を展開することにより、全体として「子どもを生み、育てやすいまち」という生活環境をつくることが重要である。
 また、少子化と同時に高齢化も急速に進展することを考慮すれば、高齢者が住みやすいまちづくりとともに、子育てしやすいまちづくりに対して全地方自治体が取り組むこととなれば、わが国の子育て環境は一変することであろう。

E子育てに対する社会的支援の充実

わが国では長い間、老後の生活や高齢者の介護、子どもの育児は、家族の責任に委ねられてきた。しかし、寿命の伸長や生活水準の向上、核家族化の進展、生活形態の変化等から、家族のみがこれらの仕事を担うことは難しくなり、高齢者に対しては、年金制度や老人保健、老人福祉、さらには介護保険と、社会的な仕組みとして、生活を支える社会保障制度の充実が図られてきた。一方、子育てに対しても、保育所等の児童福祉や児童手当等の社会手当など、社会的な支援の仕組みがつくられてきた。
 しかし、社会保障給付費(2003年度)の規模でみると、全体で84.3兆円のうち、高齢者関係には全体の7割の59兆円が給付されているのに対して、児童・家族関係給付費は全体の約4%、3.2兆円に過ぎない。仮に、高齢者関係給付費を65歳以上人口で除し、児童・家族関係給付費を15歳未満人口で除すると、1人あたり給付費は、高齢者は約247万円であるのに対し、子どもは約17万円となる。これは、高齢者に対する社会的支援に比べて、子どもに対する社会的支援の規模が極めて小さいことを示している。
 わが国の社会全体の子育て費用は38.5兆円(2002年度)であり、そのうち公費負担部分は約5割を占めているが、その3分の2は学校教育費、その約3割が医療・福祉関係費となっている。
 OECD諸国において、各国の家族政策に関する財政支出(児童手当、育児休業手当、保育サービス等)の規模を対GDP(国内総生産)比で比較すると、日本は0.6%であるが、大多数の国は日本よりも数値が高く、スウェーデンやフランスは日本の5倍の3%弱となっている。
 また、教育費への公的支出の対GDP比をみても、日本は3.5%と、OECD諸国中ではトルコに次いで最も低い水準にあり、フランスは5.7%、スウェーデンは6.3%と日本の2倍前後、教育に関する私的な負担が多いアメリカでも、公的支出は4.8%と、日本よりも高い。
 前述したとおり、これまでの施策の見直し・改善を図りながら、社会保障給付について、大きな比重を占める高齢者関係給付を見直し、これを支える若い世代及び将来世代の負担の軽減を図るとともに、多岐にわたる次世代育成支援施策について、総合的かつ効率的な視点に立って、その在り方等の幅広い検討を進め、子育てに対する社会的支援を充実させる必要がある。

おわりに ---「少子化対策」がめざすもの

これまで私は、わが国が喫緊の課題として取り組むべき「少子化対策」について縷々述べてきた。しかし、何のための「少子化対策」か、という最も基本的なことには触れないできた。

わが国は急速な高齢化の延長線上に人口減少時代を迎え、その中で年金制度問題など困難な課題に直面した結果、多くの国民が将来に危機感を募らせている。そうした状況の下で少子化問題を位置づけるせいか、ややもすれば「働き手を確保するための対策」という視点が前面に出すぎるきらいがあるようだ。かつての軍国主義の下での「産めよ育てよ」の現代版、経済的な繁栄維持のための「産めよ育てよ」ではないか、との批判が当たっている面もあろう。

  しかしすべての人口減少国が日本と同じようなねらいで少子化対策に踏み切ったわけではない。たとえばフランスでは「出生率の引き上げ」をめざしたのではなく、子どもたちや彼らを生み育てる家族のための「ファミリー・ポリシー」を進めた結果、反射効果として出生率の回復に結びついたにすぎない。

私は昨年 1年間、自民党の女性局長を務めたが、年間活動の柱を少子化問題に据え、『子どもHappyプロジェクト』を推進した。その第一弾として全国から約八千人を対象に「結婚・出産・子育てに関するアンケート」を実施し、子育て世代を中心に現代日本人の家族観をきめ細かく分析した。その結果、大多数の日本人が「子どもを持つ」ことに関して肯定的なことがわかった。その点に私は日本の明るい将来を確信できた気がした。わたしが少子化対策プロジェクトを『子どもHappyプロジェクト』と名づけた理由も実はそこにある。将来養ってくれる子どもたちが数多く生まれなければ自分たちが困る・・・という親世代の利己主義に基づく「少子化対策」は決して成果を挙げることができない。

わが国がめざすべき「少子化対策」の本当のねらい。それは「子どもは社会の宝」、「家族の、そして社会全体の幸せのシンボル」という意識を育てること。そうした意識が国民の間に共有されない限り、どんなに強力な「少子化対策」も決してホンモノにはならないだろう。この点を最後に強調しておきたい。

  

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