YOKO KAMIKAWA OFFICIAL WEB SITE

かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

東京財団発行 『日本人のちから』第 15号(2004年12月)

 

座談会 ブッシュ再選後の日米関係をどう作るか


参加者/衆議院議員 大谷  信盛

衆議院議員 上川  陽子

衆議院議員 長島  昭久

参議院議員   林    芳正

司 会/(株)双日総合研究所副所長 吉崎   達彦

● ブッシュ再選をどう見るか

 吉崎 米大統領選挙はブッシュ勝利という結果になりました。本日は、アメリカで政治活動を体験された国会議員四人に「米大統領選挙の結果と今後の日米関係」というテーマで話し合っていただこうと思います。
 まず、最初にブッシュとケリー、皆さんだったらどちらを支持したでしょうか、アメリカ人だったとして。
  それはブッシュでしょう。アメリカ人だったら。
 長島 アメリカ人だったら、今回はケリーです。
 大谷 立場上、ケリーです。
 吉崎 立場上ですか(笑)。
 上川 ケリー。
 吉崎 じゃ、ここでは一対三でケリーが当選しているわけですが、選挙結果について、皆さん、どのように受けとめられていますでしょうか。
  私はケリー選出の民主党大会に行きましたが、いろいろな人と話していて感じたのは、ケリーがすごくいいというよりも、ともかくブッシュを代えるというところでまとまっていたということです。実際自分の目でケリーを党大会で見て、もう一つカリスマ的なものが感じられなかった。
 それから、私がアメリカ人だったらというところにこだわるのは、やはり9・11です。こういうときには一緒に頑張ろうという方を選択するだろうと。
 長島 今の林さんのお話は、ブッシュの勝因を見事に言いあらわしていると思いますね。
 僕は今回アメリカに行きバイデン上院議員と話しましたが、彼も「今のイラク情勢を安定化させる。日本ももっと貢献しろ」とはっきり言っていました。そういう意味では、ケリーになってもそんなに大きく政策は変わらない。しかし、ブッシュでかなり傷ついたアメリカの威信、リーダーシップを取り返していくにはケリーさんに託すしかない。あまりアトラクティブな候補では確かにないかもしれないが。
 上川 確かにブッシュのほうがスター性、カリスマ性が非常にあって、今度のテロの問題に対しても意思決定がはっきりしていますね。そういうことは9・11の心理からすると非常になじみやすい。
 だけれども、イラクの現実を見てみると死傷者も大変多いし、どんどんネガティブな事実が明らかになっていく。イラクから帰国した多くの人たちの声には、大義の部分できちっと自分たちの生命が役に立っているのか疑問が生じてきているようなムードがある。だから、国内的には強いアメリカを象徴するようなリーダーシップを大統領に期待している反面、国際的に見て、ブッシュのやり方への反発や非常に落胆している心理も働いたと思います。
 今のアメリカの置かれている状況からすると、政策的にはブッシュでもケリーでもそれほど変わりはないし、確かにケリー氏にはカリスマ性はない。だからといって、その先、ブッシュ氏を選ぶとすれば、さらにブッシュの政策が先鋭化して出てくることが懸念される。今回の選挙では非常に拮抗した投票結果が出ているので少しバランスがとれるような政策の転換があるかもしれない。しかし、選挙直前にビンラディンからああいうメッセージが出てくると、さらにブッシュが先鋭化する可能性もある。ブレーキをかけたいなという意味でケリー氏という選択です。

 大谷 なぜケリーか。私がアメリカ人になり切れていないからなのでしょうが、もしほんとうにアメリカ人だったら心情的にブッシュだったかもしれません。しかし、アメリカ人だったとしても、ブッシュでは政策的に見て危険じゃないかなと。選挙人獲得状況を見ると、ホワイトカラーが多い地域と言ったら語弊があるのかもしれませんけれども、そういう部分はケリーさんになっている。同じような感覚で僕も危険的なものを感じて、この場合はブッシュさんじゃないところに入れておくという投票行動に自分は動いたのではないかなと思います。

● アメリカの選挙、日本の選挙

 吉崎 今回は前回と同様、また選挙制度でいろいろもめたりしていますね。実際、皆さん、日本で選挙をやっておられる。大谷さんなんかはアメリカの選挙の現場も知っている。そういう二つの選挙の形を見ていて、どんなことを思われますか。
 大谷 僕は、これは民主党が勝てた選挙だったと思います。
 吉崎 どうやったら勝っていますか。
 大谷 それは候補者の一言です。チャレンジャー側は、予備選挙で勝てる候補は本選挙で勝てないと言われます。本選挙で勝てる候補は予備選挙で勝てない。リベラル色の強いケリーさんだから予備選挙を制覇できるけれども、リベラル色が強過ぎて本選挙では票を逃がしてしまう。そこを何がカバーするかと言うと、政策を通じた個人売り、キャラクター売りです。
 ケリーさんの場合、政界用語で言えば一枚上を抜けなかった。カリスマ不足という一言かな。クリントンがブッシュパパに勝ったときと同じようなアンチ現職プラスこの人という風が吹いて、ダブルエンジンで当選できた選挙だったと思います。
 長島 僕も、クリントン級の人物が出ていたらと思います。そのクリントンが選挙戦の最後に病み上がりでケリーの応援に入った。十キロ近くやせて大分ふけたなと思いましたが、ケリーがやはり食われていました。
 それからアメリカ社会が相当保守化している点も見逃せない。今回、大統領選挙だけではなくて上院も下院も共和党がとりましたね。マージンも広げましたね。民主党のダシュル院内総務もたたき落とされた。同性婚の禁止を求める住民投票も十一州でかなり差がついて可決している。そういうギングリッジ以来の保守革命みたいなものがある。
 もちろん、キリスト教右派などがかなり原動力になっていると思いますけれども、南部を中心に草の根保守が相当浸透してきている。だから、よほどの候補が出てこないと、民主党がこれをひっくり返すのはなかなか難しいという気がします。
  選挙制度の問題だけ言うと、日本と比べるとアメリカは圧倒的に劣っている。日本は、要するに戸籍、住民票がきちっとしていますから、アメリカのような問題は起こり得ない。
 長島 暫定投票なんてあり得ない。
  日本では立会人がいて、例えてみれば「林義郎」と書いた名前を「芳正」に入れろとかものすごいわけです。十票単位でやっている。そういうインフラというのは非常にしっかりしていますが、逆に我々はアメリカのような予備選ができない。予備選では、投票の登録をするときにパーティーも登録して、党費を払わなくても党員として予備選に入れる。
 民主党がこれからどうなるかということで言うと、『マイノリティー・パーティー』という本を十年前に読んだことがあった。民主党はいろいろな少数派の人がモザイクのように集まった党になってしまっているのではないかと書かれていた。
 だから、FDR(フランクリン・デラノ・ルーズベルト)のときのレインボー・コーリションをつくったときのような一体感がない。これに反対、これに反対、これはやってほしいと言う人たちが集まっているので、さっきの予備選と本選のプロセスというのが、まさにそこの弱さが出ているわけです。
 リベラルなことを言えば言うほど予備選では強い。しかし、本選では党員だけでは勝てない。そういう意味では、クリントンはカリスマがあったし、彼はDLC(Democratic Leaders Council)だった。民主党右派でありながら、当時のいろいろなスキャンダルなどもありながら予備選で勝った。
 だから、予備選でああいう人を選べるかどうかというのが今後、民主党の活路になるのではないかと思うのです。そういう意味では、私は半分冗談で、ブッシュ、クリントン、ブッシュ、クリントンと言っていまして、四年後はミセス・クリントンが出てくるのではないかと思いますけれど。
 大谷 全く同感で、この結果を見て将来のアメリカを作っていこうと一番真剣に考え出した人はヒラリー上院議員でしょうね。元大統領クリントン氏も、これで政治的影響力がかなり残るわけでしょうね。
 長島 ケリーの選挙参謀は委員会制でバラバラ、片や共和党はカール・ローブが全部仕切ってやっている。ジョン・サッソーというクリントンの選挙参謀が最後に登場して何とか追い込んだけれども、追いつかなかったという展開だった。そういう意味でもクリントン・マシンはすごみを発揮しましたね。
 大谷 ジェームズ・カービルも途中から入ったとかということをどこかのニュースレターで読んだけれども、今回は選挙参謀にヒーローが出ませんでしたね。
 吉崎 そうですね。
 長島 映画にもなったカービル、ステファノポレス・チームのような、ああいうコンビネーションみたいなものがあまりなかった。
 上川 大統領選挙ですばらしいなと思うのは、時間をかけてこれからの四年間のリーダーを選ぶというプロセスですね。勝者総取り方式でも、そのほうが多分いいと思います。選挙のあり方としては勝ち負けの差がつきすぎるようなところもあるけれども、一年間かけて、予備選も含めて、全国民挙げての総ディベートですね。その総ディベートを、今のイッシューではなくて四年先のイッシューまで含めて議論をしていくということが、やっぱり強みじゃないかなと思います。
 日本では、将来を展望しながらの議論ということについては官僚もできていないし、政治家も日々の選挙運動をしていてあまりできない。国民挙げて将来についてディベートをする場所がない。それをアメリカでは大統領選挙で見事にやっている。非常に知恵回りがいい制度でうらやましい。

 長島 民主主義の成熟度ということから言うと、十月六日に米政府のイラク調査団の報告書が出ましたが、あれはすごい。つまり、イラクの大量破壊兵器の計画すらなかったという結論は、ブッシュ政権にとっては相当なダメージです。当然、ブッシュは事前に内容を知り得る立場にあったはずです。にもかかわらず、大統領選の一ヵ月前の肝心な時期に出した。
 これは別に党派的批判ではないけれども、日本では七月の参議院選挙のときに年金問題が話題になって、その一番のベースになる出生率のデータが、選挙が終わってから出ましたね。これは官僚の問題かもしれないが。だから、彼我の民主主義の成熟度、強靱さというのはやっぱり随分違うと思いました。

● 日米関係はこの二ヵ月が鍵だ

 吉崎 日本は二期目のブッシュ政権とどう対していくべきでしょうか。
 長島 パウエルやラムズフェルドの退任など人事の予測はなかなか難しいが、外交政策の基本線は変わらないでしょう。六ヵ国協議やトランスフォーメーションといったいろいろな宿題もはっきりしています。日本は、来年一月二十日の就任式までの一〜二ヵ月の間に、対米関係の体制を立て直して臨むべきです。
 この前、アーミテージさんが来られて「トランスフォーメーションについて、同盟の理念を議論する前に個別の基地の問題から入って、ちょっと議論の入り口を間違ったみたいだ」と言われました。
 僕は、あれは相当強烈な皮肉で、つまり、一九九六年以来さんざん戦略協議なるものをやってきて総論が終わったので、では各論にと言ったらまた同じ反応だったということを嘆いたのではなかったか。
 それはアーミテージだったら待てるかもしれないけれども、彼以外の人だったらそこまで日本のことを慮ってくれるだろうか、ということですね。そう考えると、日本の側で意思決定をしないと、トランスフォーメーションという大きなチャンスを逃してしまうことになる。この二ヵ月がすごく重要です。
  おっしゃるとおりです。ケリーが勝っていると、来年一月二十日の大統領就任式までの二ヵ月というのは意味もなく過ごすことになったかもしれません。
 それから、大統領選の結果を待っていたのは日本だけではなくて、北朝鮮も、イラクの政府側も反政府側も、アフガンも、中国も見ていた。市場で言うと模様眺めみたいなところがありました。世界がこれから動き出す。だから、日本だけリアクティブでは困る。
 自民党は今、合同部会形式でトランスフォーメーションに取り組んでいます。政府と緊密に連絡をとりながら、党としてはそこでやる。長島さんがおっしゃったように、これは非常に大きなチャンスでもある。アメリカをパートナーとして、イコール・パートナーシップという考え方で取り組んでいくという姿勢が非常に大事だと思います。
 最後のところでは、どうしてもうちの地元はというのが出てくるのは当然ですけれども、その前の国民レベルでの議論ができていれば、全く知らないところでポンと出てくるよりは随分違う。それは五五年体制のときとは国民の皆さんの受けとめ方も変わってきている。だから、ちょうどこの二ヵ月というのは、いい期間ではないかと思います。
 大谷 人事はもちろん大切ですが、大統領のマネジメントスタイルでもすごく変わるわけです。ある大統領はNSC(国家安全保障会議)の補佐官に外交を任せるし、ある大統領は国務長官を大事に使い、ある大統領はペンタゴンの長官を国務長官と両方あわせて使うような使い方をする。
 ブッシュ政権のマネジメントスタイルは安保をつかさどっている方々を中心に外交しているように見えるので、基本的にはその点は変わらないだろう。ただ、交渉のやりとりの中で国務省の人がだれになるのかで、米軍再編に関しては向こうとのかかわり方が変わってくるだけではないのかと思います。
 もう一つは、ご存じのように、二期目の大統領というのは必ず歴史に名前を残そうとしますね。クリントンだったら、イスラエル、パレスチナの問題を何とかしよう、それがだめだったから今度は朝鮮半島を何とかしようということで、国内ではないですね。対外的なものでないと、今のアメリカ政治では名前は残りませんから、そこを彼はどうしようとするのかなというのが僕にとっては最大の関心です。今、ブッシュはいろいろなことに手をつけていますけれども、クリントンのときにも、最後に急にイスラエル、パレスチナ問題に走りましたね。
  それは小泉さんも一緒ですよ。二〇〇六年九月の自民党総裁としての任期まで、もう選挙はありませんから。自分で解散すると言えば別ですが、そうでなければ、任期までは選挙もなしで、二期目の大統領に近い状況にあるわけですから、これは非常にチャンスです。長期的にそれぞれの国や両国にとってベストなことを、短期的には批判を受けても選択できるという状況にあるわけです、お互いに。だから、そういう意味ではこの機会を生かすという視点が大事だと思いますね。

● 日本は何をすべきか

 吉崎 小泉さんには何をやってもらったらいいでしょうか。
 上川 ブッシュは、イラクの問題を通して「アメリカは完全に戦略的に一体的にやる国だ」ということを、世界に鮮明に印象づけたと思います。トランスフォーメーションの議論でも、日本のほうはそう思っていないかもしれないが、アメリカとしては、一体的に全部、基地の問題にしても配置をしていこうということではないか。
 だから、日本にとっての選択肢というのは余りないのだろうと思います。いくら日本がいろいろなことを選べるとアメリカに言われたとしても、多分、かなり強いプレッシャーで最終的には聞き入れざるを得ないということではないか。
 強いプレッシャーというのは日本を無理に押し込むということではなく、いろいろなやり方でアメリカの目論見どおりにはめ込もうとする。安全保障の面ではそういう時代に入っていると強く感じます。

  例えば、沖縄の負担が増えるみたいなことが純粋に戦略的な見地からの提案としてアメリカから出てくるのなら、それは日本として聞き入れるというわけには行かない。
 だが現実には、沖縄の負担は軽減しつつ、国内及び国外になるべく移転するということが日米間の基本線として出ている。ということは、日本の政治状況というのはある程度勘案してやらないと困るというのはアメリカも理解をしているわけです。
 長島 上川さんが危惧されていることは理解できますが、これはアメリカがどう出てくるかというよりは、日本が日米同盟に対してどういう政策的・戦略的なインプットをするかだと思います。アメリカだって自信満々であるわけではないと思う。つまり、スーパーパワーになって、何か力を持て余しているようなところがあって、今のパワーをどう使ったらいいか、かなり戸惑っているところもあると思う。
 僕は、この間ずっと見ていて、我が民主党自身も含めて思うのは、こちら側からアメリカに対して、アメリカが悪い、イラク攻撃は誤りだ、と言うのは簡単だけれども、ほんとうにお互い共同作業で世界の秩序をつくっていくにはこうしたらいいという真剣な努力を、アメリカに対してやり切れていたのかなという反省もある。
 小泉さんも何となく単調に「イエス。イエス」と言ってしまっているのかなと。それから、フランスにしても単純に「ノー」と言ってしまっているのかなと。その中間にある、「イエス」でも「ノー」でもない、責任を分担し合うというところの工夫をこれからやっていくべきだし、アメリカは何だかんだと言っても、イラクは強引すぎたと反省していると思います。教訓として学んでいると思います。これからの政権はどうなるかわからないけれども、僕は意外と穏健な、9・11の前のような感じに戻していこうとすると思う。そのときに我々がエンゲージする相手が、まあ、パウエルさんはいなくなるけれども、出てくるだろうと思います。
 上川 それは完全にそうあってほしいわけです。そのためには日本が自らの総合戦略をしっかり立て、厚みのある形で外交交渉をしていかないといけない。その意味では議員外交はすごく大事だと思います。日本の外交交渉というのは非常にシングルな感じで進んでいきがちだけれども、いろいろな角度からやっていくということが重要です。
 今安保の問題とか憲法の問題とか大きなテーマが目白押しで、そういうものが全部つながっているわけですね。それらをどこまで、目先のことではなくて、しっかりと肉づけできるのかがまさに問われていて、そこのところが厚くできれば自信を持ってぶつかっていくことができる、あるいは日本から提言していくことができる。

  今、長島さんがおっしゃったことに僕も期待したいなと思うのは、ブッシュのほうも国を一つにするということを既に言っていますね。
 長島 そうですね。
  大統領選挙がこれだけぎりぎりの結果になったということは、やはりブッシュ大統領もその事実は受けとめていくだろうと。ちょっと希望的観測ですが。

● 多元的な外交をどう進めるか

 吉崎 大谷さん、ソフトパワーの話になりましたが。
 大谷 今、上川さんが議員外交とおっしゃいましたけれども、日本の国会議員の中で林先輩は議員外交をやっておられる方の一人です。
 しかし、アメリカの議員に電話して「おまえのところ、どうなんだ」と言えるような関係があったのかというと、そこまであった人は少なかった。多分、吉田茂の時代にはおられたと思いますが。
 やはり、別のチャンネルのメッセージを発信できるようなルートがないと、さっき上川さんのお話のような、アメリカに形を決められて、そこに押さえ込まれるということになってしまう。そうさせてはいけないというのが我々の思いであり、そうさせないのが我々の仕事です。野党であれ与党であれ、我々議員ですから政府の立場じゃないですから、そこのところは逆に上手に押し込めていくような役割を担っていかなければいけないというのをつくづくと今感じさせられましたね。
  国際捕鯨の問題をやっていますとおもしろいのは、アメリカは真っ向から反対なんです。しかし、日米同盟があるのでチャンネルだけはきちっと持っている。それで、向こうはよく、「これでは議会がおさまりません」と言います。我々も、議院内閣制ではあるけれども、「議会はこんなのでは帰れません」というのをやるということだっていい。我々が向こうの議会と直接話さなくても、議会がこう言っているというのをやるとかいろいろある。それはトラック2としての議会交流だけでなくて、いろいろな行政がやることに対する国会の役割は重いものがありますから、それを外交にうまくやりながら使うみたいなことが必要です。
 長島 全くそのとおり。イラクに対して小泉さんは協力すると言っているけれども、でも、その背後には野党第一党たる民主党の反対がある。そういうネガティブな世論も利用しながら対米外交をすべきです。いや、これは別に小泉さんに対するアドバイスでもないですが、アメリカだったら自然とそうなるはずですよ。
  逆に言えば、そういうことはこれだけ無理してもやっているという使い分けですよ。だから、その辺はいろいろやり方があるのではないかと思いますし、そういう老獪な国は世の中にいっぱいあります。
 吉崎 ありがとうござました。

(この座談会は二〇〇四年十一月四日に行われました)

──────────────────────

よしざき・たつひこ
一九六〇年生まれ。 一橋大学社会学部卒業。八四年日商岩井入社。 米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て、二〇〇二年より現職。個人サイト 「溜池通信」 を運営中。主著に『アメリカの論理』など。東京財団「日本の総合的安全保障のあり方に関する研究会」リーダー。

おおたに・のぶもり
一九六二年生まれ。ジョージ・ワシントン大学大学院国際関係論修士課程修了後、米エディ・マイ社に入社。帰国後、新党さきがけ選挙対策室長政策委員などを経て、民主党大阪府総支部連合会副幹事長。二〇〇〇年の衆院選で初当選。現在、党「次の内閣」外務総括副大臣、国際局副局長、経済団体局次長など。当選二回、大阪九区。

<私の在米体験>
 私は一九八八年にジョージ・ワシントン大学の国際政治の大学院に入りました。ブッシュ(父)対デュカキスの大統領選挙を見ているうちに、アメリカの選挙ではどうやってアジェンダ・セッティングをするのか、そしてその本音の理由は何かを研究したくなり、卒業後もアメリカに残って選挙関係のコンサルタントであるエディ・マイ社に勤務しました。そこで下院議員選挙、上院議員選挙と知事選挙を半分インターン・半分職員というような立場で体験しました。日本の選挙を地上戦とすると、アメリカの選挙はテレビありの空中戦だと言えるでしょう。

かみかわ・ようこ
一九五三年生まれ。東京大学卒業後、三菱総合研究所からフルブライト奨学生としてハーバード大学院に留学。ボーカス米国上院議員政策立案スタッフを経て、三菱総合研究所研究員のかたわら、政策コンサルティング会社を設立し代表取締役。二〇〇〇年の衆院選に無所属出馬で当選し、自民党入党。当選二回。

<私の在米体験>
 一九八六年にハーバードのケネディ・スクールに留学しました。日米貿易摩擦の時代で、日米関係に関心を持ち、上院の外交小委員長であったボーカス上院議員のインターンに。当時日本の競争力の源泉と考えられていたメーンバンク制度と高貯蓄率という二つのテーマについて提案をしましたが、そのときCRS(コングレッショナル・リサーチ・サービス)のレベルの高さに驚かされました。CRSは、スタッフの人たちが大学の教授並みのレベルで、しかも厚みのある組織です。そのマシンに支えられて、ポリシー・メーキング、デシジョン・メーキングがなされている。これはかなわないと感じました。


ながしま・あきひさ
一九六二年生まれ。慶応大学大学院博士課程在学中に衆院議員秘書を務め、のちにヴァンダービルト大学客員研究員。ジョンズ・ホプキンス大学大学院で修士号取得後、米外交問題評議会上席研究員。東京財団主任研究員を経て、二〇〇三年の衆院選で初当選。民主党政調副会長(外務防衛・文部科学担当)。

<私の在米体験>
 一九九三年に渡米。三年目にSAIS(ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院)に入り、ブレジンスキーのゼミを取りましたが、彼が大統領役で私は日本と韓国に対するアメリカの政策担当役。ゼミ生全員が彼から質問攻めで緊張の連続でした。ワシントンに一九九五年から五年間いて、北朝鮮の崩壊などのシミュレーションをランド、NDU(国防大学)、MITなどで経験し、アメリカのシミュレーション文化に感銘を受けました。その後、運良く外交問題評議会で朝鮮半島のプロジェクト担当に就任、今の六ヵ国協議、その前のペリー・プロセスの下敷きとなる報告書を提出しました。

はやし・よしまさ
一九六一年生まれ。東京大学卒業後、会社勤務を経てハーバード大学大学院特別研究生として渡米。米下院議員スタッフ、上院議員アシスタントを経て、九五年の参院選で初当選。自民党参院副幹事長、大蔵政務次官などを歴任。現在、参院外交防衛委員長、党行革事務局長、党政調会副会長など。当選二回。

<私の在米体験>
 渡米の目的は留学よりワシントンでの議員のインターンでしたので、民主党系のロビイスト、民主党系の下院議員を各二ヵ月、それから共和党のロス上院議員のところに八ヵ月おりました。その頃ジャパン・バッシングに対して「少なくとも日本のことを知ってからたたいてもらいたい」と思っていたので、ロス議員のところでアメリカの官僚に日本の官庁体験をしてもらえるよう、後にマンスフィールド法と呼ばれる法案を提出しました。当時は、アメリカで勉強しても日本では役に立たないと言われていましたが、今や日本でもアメリカでの経験を使わざるを得ない時代になってきたと感じています。

↑ページのトップへ

←戻る