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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

宮沢喜一 いまを語る

聞き手/衆議院議員 上川陽子

宏池会 ― 政治家30人の提言 2003年6月

外交・防衛
  • まず、イラク戦争についてお伺いします。今回の戦争は、国際社会の秩序を大きく転換させるとともに、日本にとっても、日米同盟と国連を中心とする国際協調という戦後外交の基本を大きく問われるものでした。先生のご印象はいかがですか。
    • 「イラク戦争は、4週間かからず事実上終わりました。アメリカの様子を聞いていると、軍人の方々は昔のようにたくさんの兵隊を集め、十分爆撃して、それから陸戦に移ることを考えていたらしいですね。しかしそれには相当の時間も兵力もかかります。そこでラムズフェルド国防長官は、これだけハイテクノロジーの世の中で昔と同じことはないと判断し、随分早い戦争を指令したのではないかと思います。軍人からはいろいろと抵抗があったようでしたね。しかし結果としては目にも留まらないスピードで戦争が進行した結果、おそらくフセイン政権側が時間的に対抗できなかった要素があった気がします。成功か不成功かという意味では、戦争そのものは成功したと思います。」
  • 国連とアメリカの関係には厳しいものがありましたね。
    • 「戦争は成功したものの、国連安保理との関係ではアメリカは苦しんだように見えましたね。安保理15カ国の中で9票を取るということについて、アメリカがなかなか9票取れなかった。苦労して実際にはそのことをあきらめた形になりましたが、アメリカ側にすれば安保理で否決されるよりはマシだと考えたのでしょう。確認できませんが、実際は9票取れたのかもしれないという声もあります。しかし、その場合にはフランスがビトー(拒否権行使)するから、安保理としては明らかに否決という結論が出ることになる。その事実はむしろ避ける方がいいと判断したとも言われています。」
    • 「いずれにしてもアメリカとしては有権的な解釈で戦争に入ったわけでしょう。その場合の戦争目的は、『大量破壊兵器を全部武装解除すること』と『フセイン政権を倒すこと』だったのでしょう。しかし、アメリカの隣国であるメキシコ・カナダも同意しなかったということは、外交的にはかなり辛かっただろうと私は見ておりました。」
  • 日本の対応についてはどうお考えですか。
    • 「今回の場合、アメリカにとって『自衛のための戦争』と言えないし、『仕掛けられた戦争』とも言えなかった。また、フセインが核兵器を持っている証拠もはっきりしていないし、9月11日の攻撃を仕掛けたのがイラクであるという証拠もない。日本の立場として、小泉首相は随分苦労されたと思います。首相の心境を察すると、おそらく大量破壊兵器のようなものをならず者が持っていると、これを他に渡すことや自分で使うこともできる。そうしたデンジャラス(危険)な兵器をデンジャラスな連中が持つことは最もデンジャラスである、ということがアメリカの戦争の動機だと考えられたのだと思われます。」
    • 「その意味では、日本の周辺にも同様にデンジャラスな国が不幸にしてあるわけで、しかも大量破壊兵器を持っている。あるいは持つつもりだとほとんど言おうとしている状況の中で、日本はそれを防ぐ方法がない。つまり、日米安保条約しかこれに対応する方法がないわけですから、今回のアメリカの主張に対して総理大臣も支持を与える決心をされたのだろうと思います。現実の判断として、私は仕方なかったと思っています。」
    • 「戦争が終了した今の問題としては、『今後、イラクの民主化が本当にできるのか』という気の遠くなるような話が一つあり、さらにもう一つ『大量破壊兵器は本当にあったのか』という問題をいい加減に終わらせないことが残っているのではないかと思っています。」
  • アメリカの動機について考えると、9・11がアメリカに及ぼした影響というのは日本人が考える以上に大変なものだった気がします。日本人の感覚からすると、今回のイラク戦争は自衛権に対しての正当防衛的反応という解釈はまったく成り立ちませんが、アメリカ人の精神構造には何とか9・11に結びつけたいという気持ちがあるように見えますね。
    • 「それは正しい見方だと思います。自分たちの見ている前でニューヨークもワシントンもやられ、3,000人もが死に、それに対して何もできないのかという一種の憤激の気持ちはそこの人たちにしかわからない。ただその場合、フセインが攻めてきたわけではないのですから、本来なかなかそこには結びつかないはずだけど、アメリカ人はなんとなく一緒にして考えてしまった。『フセインがけしからんのだ』となってしまったところは、遠くから見ている私たちにはわかりにくいところがありますね。アメリカ人の主観というのはそういうものだったのかって思いますね。」
    • 「そんな中、思いがけず戦争が早く終わった。今後、われわれとして注意して見ておくべきことは、イラクの民主化という簡単にはできそうもない問題をこれから何年かかってやっていくのかということ。それから、大量破壊兵器が本当にあるならば発見して根絶する、という二つの点をしっかりはっきりさせてもらいたいということ。さらには、亀裂が生じた安保理との関係修復をどうやってするか、という問題もあると思いますね。」
  • 先生は今年3月の段階では、イラクの戦後復興についてアメリカも当然、国際協調の中で方向を見出すのではないか、と新聞のインタビューにお答えになっていらっしゃいました。しかし今の状況を見ていると、アメリカとしてはできるだけ国連安保理での議論に束縛されず、混乱が収束するまではアメリカ自身で対応する。その後についても、タテマエとしては国際社会の協調に任せるというものの、ホンネでは引き続き自ら主導権を握りたいという意図が感じられます。
    • 「そうですね。そこには問題が二つあります。一つはいわゆるアメリカのネオコンサバティブ(ネオコン)といわれる人たちです。彼らは湾岸戦争が10年前に終わった後あたりからだんだん出てくるようになりました。冷戦が終わり、アメリカは唯一の巨人になったわけです。巨人に他国の小人たちが綱をかけようとするのは、巨人としてははなはだ不本意であるはずです。『自分たちは正義のために民主主義をやるのだから、遠慮することはない』と主張するのが単純ではありますが、今のネオコンの考え方であり、今後その傾向がますます強くなるだろうと思われます。ネオコンたちは、国連や安保理は役に立たないものだと考えているわけです。だから当然、戦後復興を国連に任せることについては反対、という考え方があるのだと思いますね。」
    • 「もう一つは、イラク戦争でアメリカと袂を分けたロシアとフランス、ドイツの問題です。これらの国の中で、私は、ロシアは何とかアメリカと妥協していこうとする空気があるのではないかと思っています。その裏には当然、オイル(油)の話があり、ロシアはフセイン時代に油の契約をかなりのところまでまとめていたと思われるフシがあって、ロシアとしてそれをアメリカに尊重してもらいたいという意図があります。一方、フランスはロシアのような段階まではできていなかった。しかしフランスとしては、今後の油の利権を非常に欲しがるはずです。ここにアメリカとフランスの対立軸があり、アメリカがフランスと仲直りしようという話がなかなか進んでいない理由もそこにあるのだと思います。」
    • 「まして、今、現実にイラクの治安を守り、食糧を供給したりしているのはアメリカを代表とする連合軍です。毎日行われていることを国連が急に取って代わることは簡単なことではないと思うのです。日本としては、アメリカが国連に委ねるように努力すべきだろうし、していくと思いますが、どうも簡単にいきそうにはない予感がします。」
  • アメリカと連合軍を組むイギリスは、戦後復興に関してはアメリカを制し、かなり強く主張しています。
    • 「イギリスは油の話については、おそらくあまり心配する立場にないのではないかと思います。ですから今回のイラク戦争参加で、ブレア首相は国内的・EU的にも苦しい立場となったので、なんとかヨーロッパとしてまとまった主張をし、アメリカにも強く主張するといった政治的駆け引きがあるのではないでしょうか。」
  • イラクの戦後復興における国連の役割については『バイタルな役割』という言葉が聞かれましたが・・・。
    • 「その言葉の解釈が連合軍内のアメリカとイギリスでは違うみたいですね。アイルランドでの会議でブッシュ大統領とブレア首相がそれぞれ会見したのをテレビで見ていましたが、ブレア首相は戦後復興を『国連にやらせる』と。これに対しブッシュ大統領は、それを支持しながらも『国連にはバイタルな役割をやってもらいたい』とコメントした。しかし、ブッシュ大統領の『バイタル』という言葉が私にはあまり積極的には聞こえませんでした。あの言葉をめぐってはお互いに考え方の違いがあるのだろうと思いますね。ある説では、ブッシュ大統領の『バイタル』の意味は、食べ物や衣服など人道援助に関することだけを指しているとも言われていますね。」
  • 目下のところはネオコンがアメリカを引っ張る動きが目立ちますが、いずれバランスを取ろうとする揺り戻しの動きがアメリカ社会の中に出てくるのではないでしょうか。
    • 「今、ネオコンは勢いがいいし、しばらくは続くと思います。しかし確かにこれだけでアメリカが動くわけではないとも考えられますね。ただ、ニューヨークタイムズなどの新聞では、今ネオコンの支持者がなかなか多いことになっていますね。つまりアメリカがホッブスの巨大国家『リバイアサン』になって、みんなにデモクラシーをやってやる、国連なんかに頼っていられないという思想は当分流行る可能性はありますね。来年アメリカでは選挙運動が始まりますが、その中でデモクラット(民主党議員)はあまり強い主張をせず、その点はあまりリパブリカン(共和党議員)と変わらないと思いますね。」
  • イラクの戦後復興についてはどのようにお考えですか。
    • 「すでに油田の復旧にアメリカのハリバートン・グループが出てきていることなどを筆頭にして、とりあえず仕事となるとどうしてもアメリカ自前の方が動きやすい。」「しかし、民間企業による復興の問題だけではなく、その前に石油関連の話があって、国連が管理する『オイル・フォー・フード(石油・食料交換計画)』がある。これは石油収入100億ドル分に相当する食料を国連がイラクに供給しているもので、アメリカといえども手は触れられないのです。これはフセイン政権時のイラクに対する懲罰なのですが、すでにフセイン政権が倒れたため、アメリカはこれを解除しろと国連に主張しています。しかし国連はアメリカによるイラク国内の石油利権への進出を予想して、現時点では『NO』と答えています。この問題があることを今後も含んでおく必要はありますね。」
  • イラク復興に対する日本の役割についてはいかがですか。
    • 「『オフィス・フォー・リコンストラクション・アンド・ヒューマニタリアン・アシスタンス(ORHA:復興人道支援室)』についてですね。少し人を出すと聞いています。これは五・六人出すということで、緊急の人道援助などから貢献していこうとしているのでしょう。ブッシュ大統領にとって小泉首相は有力なる後援者の一人ですから、日本も手伝ってくれと呼ばれることは今後もあるでしょう。」
  • 憲法上の問題はありませんか。
    • 「今の段階では問題ありません。ただ今後、自衛隊の仕事などになってくると、法律がいるでしょうから、様子を見てみないとなんともわかりません。」
  • アフガニスタンの時には、日本も金銭面だけでなく治安に関しても貢献すべきとの声がありました。イラク問題でも同様のことが予想されますが・・・。
    • 「確かに考える余地はありますが、国民の生命を思えば、イラクの場合、『治安は武器がいらないから安全だ』というようにはしばらく考えられないのではないでしょうか。つまり、『安全だから治安維持をやってくれ』という話を、そのまま受け取るわけにはいかないでしょうね。おそらくはとても危険が伴うものになるでしょうから。」
  • 今回イラク戦争を契機に、国連の再構築を図るべきという意見が強くなってきています。先生は国連の将来についてはどのようにお考えですか。日本にとっては分担金の問題もありますが・・・。
    • 「それについては、安保理改組の話として何度も取り上げられながら、まったく実現に向かっていません。しかし日本にとって、分担金の話は大切なことです。分担金の配分について『おかしいじゃないか』と、もっとはっきり言うべきでしょう。『お金だけ』というポストに日本がいつまでも甘んじているのがおかしなことは間違いありません。」
    • 「また、国連そのものがおかしいのではないかということを、今回のイラク戦争で随分感じたのも事実です。今後、アメリカがよほどものを考えて行動しないと、『アメリカVS国連』の構図ができることも予想されます。注意しないといけません。」
  • そのアメリカに対してはどうでしょうか。
    • 「正直なところ、経済面でも力がかなり違ってしまい、今までのように日本経済がアメリカの脅威になることもしばらくの間はないでしょう。現状では、これまで積み重ねてきた二層・三層をなすアメリカとの接触を絶えず維持していくことが必要だ、と言うことに尽きると思います。」
  • 最近、アメリカの一部に日本の核武装を求める意見があると聞いていますが・・・。
    • 「本当にそれをアメリカで言う人がいたとすれば、あまりに日本のことを知らないと思います。アメリカにとってもそれはあまりハッピーなことではないでしょうし、日本にとっても核を管理する能力があるか、私は非常に疑問です。」
  • 今後の日本外交を考える上でアジアの大国・中国の存在があります。先生は常々、中国との「対話」を呼びかけていらっしゃいますが・・・。
    • 「21世紀の日本を考えると、日本は最も中国との関係で影響を受けるだろうと思います。日本とアメリカ、中国、ロシア間の『絶えざる対話』がないと疑心暗鬼がお互いに生まれます。中国は今から十年後にはかなり経済が進むはずだし、軍の近代化も必然になってくる。そうすると、日本は神経質にならざるを得ませんね。中国とは一番『絶えざる対話』を考えておかないといけません。中国が透明な国でないだけに、余計に誤解を生みやすくなるのですから。」
  • 中国と日本との対話でポイントとなるのはどのような点でしょうか。
    • 「わが国は経済面に一番頼りになるものを持っているわけですから、それを中心にして中国と上手に話していくことが大事ですね。しかしそれ以外の面では日本が中国に対して持っているバーゲニング・パワーはあまりない気がしておりまして、そのことは懸念しています。」
経済
  • 最近の経済政策についてはどのようにお考えですか。
    • 「最近財界の方から、株式譲渡益課税をやめろと言う声を聞きました。しかし、今年の税制改正で配当も含め株式の税制が変わりました。私自身はせっかくここまでしたのだから、もう少し定着させる方がよいのでは、と思っています。また補正予算も、今年度予算が成立したばかりだし、前年度の補正もその前に通っているので、あまり急ぐのではなく、今年度予算の執行前倒し程度にとどめておいた方がいいのではないでしょうか。やるなら秋でいいのですから。私自身は今、急に補正をしなくてはいけないとか、これなら効き目があるという方法は考えつきません。」
    • 「確かに小泉首相の考えもあって、国債発行を抑えるためやや抑え気味の予算になってはいます。私自身は国債を抑えることに、いつまでもこだわる必要はないと思ってはいますが、だからといって今すぐどうこうする問題ではないと思っています。」
  • 会計基準見直しの問題が政治問題にもなっていますが、どのようにお考えですか。
    • 「一般論として、ここ数年、グローバリゼーションやビッグバンなどがありまして、日本の会計基準をアメリカという意味でのインターナショナルにしておかないと合併などの時に仕事ができないということから、公認会計士の方々を中心に進んでいますね。その影響から、会計基準が日本の経済状態とは関係なくグローバライズされた傾向はあります。」
    • 「また、昔は役所がやっていたが、今は財務会計基準機構というところが管轄しており、政治家の諸君は法律でないものがどんどん事態をひっぱっていっていることに不安を感じているのではないでしょうか。それが今、調整すべき問題です。」
  • グローバルスタンダードについてはどのようにご認識ですか。
    • 「日本でも、世界企業の大法人と小さな法人がある。すべて同じにグローバルスタンダードという言葉で縛ってしまうと困ることもある。グローバルスタンダードの方向へ進んでいくことは尊重するが、日本経済全体の動きと離れてしまっては困ってくることがあるでしょうね。バランスを取らないといけません。グローバルスタンダードに合わせるという方向性は捨てず、テンポや程度を判断することが大切であり、そこが政治の裁量でもあると思います。」
  • 福井総裁による日銀の新体制がスタートしましたが、どのようにお考えですか。
    • 「福井さんが日銀の新総裁になられたことはいいことだったなと思います。やはり、思いきったことをするには日銀の中の人でないとできないと思いますね。外から行ってやろうとしても、ちょっとできないのではないかと思います。だから福井さんにいろいろ考えてもらって、ちょうどいい副総裁も2人できたし、その中でやってもらうのが一番思い切ったことができる可能性があるのではないでしょうか。今、中小企業のアセットバックCPなんかを買おうとしているわけでしょ。そういうことも福井さんに考えてもらったらいいと思います。」
これからの日本人像
  • 最後に21世紀の日本人のアイデンティティについて伺います。最近強く感じることは、国民の中に自分自身と日本とのつながりを再確認したいという気持ちが強くなっているということです。たとえば最近の教育基本法の改正論議などみると、国際化の進展により日本人の「背骨」がなくなっているのではないかという危機感が底流にあるように思います。先生はかつて、「国民の心の問題について、政治はその環境を提供するのであって、直接影響力を行使しようとしてはならない」というようなお考えを述べておられました。こうしたいわば心の問題について、政治はどのように対応すべきなのでしょうか。
    • 「今言われたようなことは確かに私もずいぶん感じていて、もうこれだけ戦後から経ちまして、やはり教育基本法の基本的な部分というのは色々議論することができる気がします。」
    • 「これだけ下から改革の雰囲気が盛り上がってきているということは、あまり他の例ではありませんよね。皆がそれを考え始めているということは、やはり根本的に議論すべき時に来ているのでしょうね。」
  • そうした中で、ボランティア、NGO・NPOのような活動が増えてきました。
    • 「日本でも今後、増えていくだろうと思いますね。昔ピーター・ドラッカーに聞いたことがあるのですが、アメリカの社会は市民がボランティア活動に使う時間が猛烈に多いそうです。教会ばかりでなく、とてつもなく多い時間をボランティア活動に皆が使っている社会だそうです。だんだんそういうふうに日本もなっていけばいいですね。」
    • 「国内にも色々なボランティアがあります。ある意味で、お子さんを預かったりする場所ができたりすることで、お母さん方にも時間の余裕がいくらかできることから、心のゆとりもできボランティアにも目が向いていくのでしょう。やはりそれも、心の問題に関する一つの事象ではないでしょうか。」
  • かつて先生が主宰される平河会で「土地の公有化論」を提言されたことがありました。しかし残念ながら、その後の日本は不動産バブルに見舞われ、その影響から立ち直れないまま現在に至っています。
    • 「昔々、土地が公共財であることについて論文を書いたことがあります。『利用権はあるけれども、土地そのものはみんなのものだと考えられないか』という趣旨でした。司馬遼太郎さんもそのことに非常に関心をお持ちになったと聞いています。しかしその後、バブルが起こって、そのことは誰も問題にしなくなりました。これだけバブルとバスト(破綻)が続くと、土地の利用権はともかく、またその時の精神に帰って土地の所有そのものが社会に属するというようなものの考え方ができるかどうか・・・。今となっては大変だという気がします。」
    • 「日本では、銀行が金を貸すとき土地を担保に取る。銀行家は、土地さえ担保に取っておけば心配ないとした。プロジェクトそのものの値打ちではなく、担保の値打ちで銀行の融資がやすやすと行われるようになってしまったところに間違いがあったということです。ですからそこから対策を打てば、何か良い結果が得られるかもしれませんね。」
  • 日本の場合、まだまだ「担保主義」のとりこになっている面があるのではないでしょうか。アメリカではプロジェクト・ファイナンスという形を取りながら、ベンチャー企業やエンジェル(投資家)を育てようとしていますが、日本でもそこに手を付けなければならないと思います。
    • 「バブルの形で担保主義がいわば馬脚を露したわけですが、銀行家が担保主義から離れ、プロジェクトの値打ちでものを考えるようになれば、今おっしゃった方向に動いていくかもしれません。」
  • エンジェルの方たちがおっしゃるのですが、ビジネスの将来性を判断するときには必ず経営者の将来性を見るということです。その人間がどのくらいものを考えていて、将来に向けてどのくらい努力しているかです。つまり「人材」の要素とプロジェクトの中身である「企画構想」の要素の二つが大切だということです。日本人の中にも戦後復興期までは「チャレンジしよう」とか、「懸命にがんばろう」といった、前に向かうエネルギーがものすごくあったと思うのですが、今の日本人は自信喪失に捕らわれがちです。もう一度、「自らが切り開いていくんだ」という人間のモデルがあればよいと思うのですが・・・。
    • 「いわゆる『一代もの』のバンカーたちはすでに亡くなってしまいましたが、彼らは担保価値を見て企業を育てたわけではなかったですね。プロジェクトによって、あるいはそれに携わる人間を鑑定することによって育てていたわけですから、そういう精神がもう一度戻ってくるといいですね。そうなれば、日本人も一度戻ってものを考えることができるようになるかもしれませんね。」
  • 日本人は、そういうことができる力を持っているわけですね。
    • 「できるはずです。かつて明治から大正のバンカーたちの中にはそういう人たちがいて、企業が育ったわけですから。本当にもう一度考えるべきことかもしれません。」
  • 今、司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」を映像化する企画がNHKで進められています。そうした試みも、明治時代の日本人が持っていたバイタリティや日本人としての最も根本的な部分を今一度見つめなおしたいという、現代の私たちの気持ちを反映しているのではないかと思います
    • 「そういうことがファイナンスに対する銀行家の基本的態度に現れてくれば、日本の社会も大きく変わっていくことになるかもしれませんね。」
  • 貴重なお話をありがとうございました

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