法務委員会で新法務大臣に冒頭質問―テロ対策、司法制度改革、犯罪被害者問題など―2006年10月18日 ― 本日、衆議院法務委員会で30分間、法務大臣、副大臣、政務官に対し質問しました。安倍内閣誕生後はじめての法務委員会ということで、新たに就任された長瀬法務大臣の所信表明演説を受け、与党代表としての冒頭質問でした。
― 質問の内容は広範囲に及びましたが、北朝鮮による核実験強行の直後だったため、北朝鮮への対応やテロ対策から始めました。以下にその要旨をご紹介します。
<北朝鮮の核実験への対応> ●上川委員 国民が安全で安心して暮らせる社会の実現は、国の大きな責務です。しかし、残念なことに、この世界一安全な国・日本の根幹というものが揺らぎ始めているということでございまして、特に国民の間にはさまざまな不安が広がっていることも確かです。このため、司法・法務の分野におきましては、とりわけ国民の安心を取り戻すことができるかどうか、重要な局面を迎えているというふうに考えています。
まず、7月5日には、テポドンといいますかミサイルの発射に関しまして日本政府としてとった措置は、北朝鮮当局の職員の入国は認めない、その他の北朝鮮からの入国についても、より厳格な審査を行うということにいたしました。また、北朝鮮船舶の乗員等の上陸は認めない。在日の北朝鮮当局の職員による北朝鮮を渡航先とした再入国は認めない。我が国国家公務員の渡航を原則として見合わせるとともに、我が国からの北朝鮮への渡航自粛を要請するという措置を講じました。
10月11日には、今回の核実験実施に対しましてより強化をいたしまして、北朝鮮籍を有する者の入国は認めない。また在日の北朝鮮当局の職員以外の者については再入国を認めるが、それ以外の者は認めないということを決定しました。さらに、国連安保理決議がありましたので、これによりますと、すべての加盟国は、北朝鮮の核、弾道ミサイル及びその他大量破壊兵器関連の政策に責任を有する個人及びその家族として国連安保理または制裁委員会が指定した者の入国、通過を禁止するために必要な措置をとらなければならないということが決定をされていますので、法務省としても、これに沿って着実にこれらを実施し、北朝鮮に対し毅然とした対応をとってまいる、こういう方針でおります。
<北朝鮮によるテロへの備え>
<安全保障会議への法務大臣の参画>
現在、我が国におきましては、重大緊急事態への対処措置を審議する安全保障会議がございます。私は、この会議には法務大臣は当然常時参加すべきものと思っておりますが、今の仕組みの中では常時ということではないということです。今、テロの問題等に触れさせていただきましたけれども、こうした問題も考えてみますと、やはり、そうした安全保障会議もしっかりと法務大臣が出席し、しかるべき対応をしていくということが大事ではないかというふうに考えていますが、この点について大臣の所感をお聞かせいただきたいと存じます。
<司法制度改革の評価>
ただ、さらに進めなきゃならない課題も幾つも残っておるわけであります。まず、この法テラスでございますけれども、その実施体制の整備が残された課題でありますし、何よりも二年半後に迫った裁判員制度をどうやって円滑に実施に移すかということが大事でありますし、来年四月には裁判外紛争解決手続の認証制度が始まりますので、これの円滑な実施も課題となっています。今後さらに力を入れて、国民により身近で、速くて、頼りがいのある司法を実現するために、この司法制度改革が国民のためのものとなるように、一層の努力を払ってまいりたいと思っておる次第です。
<司法制度改革の国民への周知徹底法>
私は、その存在の意義というのを直接国民の皆様に理解していただくということは当然大事なことであると思っていますが、それ以上に大事なこととして、司法と国民の間に立って大変御尽力をいただいている五万人の保護司の皆さんや、あるいは二万六千五百人の調停委員の皆さん、さらもは厚生労働省の管轄でありますが民生委員の皆さん、また総務省の管轄になっていますが行政相談委員の皆さんが、地域の中で大変御尽力をいただいているところであります。
こういう人たちにちょっと質問してみましても、まだ法テラスというのは何なの、と逆に問い返されるというのが実態でございまして、そういう意味では、より一般国民の方に広げていくためには、間に立った方たちへの啓蒙活動が大変大事ではないかというふうに思っています。少なくとも法務省や裁判所にかかわるところで頑張っていらっしゃる皆様が、研修等を通じ積極的に理解していただけることが大切と思います。その辺の認識について法務大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。
法務省といたしましては、この総合法律支援制度あるいは裁判員制度についてさらに国民への周知を図るよう努めてまいりますけれども、あわせて保護司や調停委員や民生委員、さらには各種会議や行事の参加者等々に対して情報を提供し、制度の意義、内容に対する御理解、また周知、こういうことに御協力をお願いし、何としてでも、特に裁判員制度についてはまだまだ理解を進めなきゃならぬと思っておりますので、よろしくお願いいたしたいと思います。
<司法における国際協力>
こうした事例は、カンボジア以外でもベトナム、ウズベキスタンやラオスなど、多くの国に広がっているというふうに承っております。刑事及び民商事法の両分野におきます国際協力、とりわけアジアに対する地道な法整備支援というのは、アジアの平和と安全にとって大切な社会基盤を提供するものですし、日本のODAという観点からしても、これから大事な分野になろうと思います。そこで、水野副大臣に、現在の取り組みの状況及び課題等も含め、よろしくお願い申し上げます。
また、主に民商事の分野におきましては、やはりその法務総合研究所を中心として、平成九年度から、法の支配の確立とか市場経済化とか、その発展を目指して法の整備を推進しているベトナムとかカンボジアなどの国々に対し、法律実務家を対象に研修を実施するなどの支援を行ってございます。これは、平成十三年度からは法務総合研究所に設置をされた国際協力部がこれを専門に担当しておりますし、今お話しの例えばカンボジアにおきましては、ことしの七月に民事訴訟法がカンボジアの国会において可決成立するなどの成果を上げているというふうに考えています。
日本のこうした他国に対する法整備支援の要請というものは今後ますます増加するというふうに思いますし、それは相手国のためにもなることであると同時に、日本にとっても例えば投資やビジネスの環境整備ということでも意味のあることだと思います。また、おっしゃられたように、 2003年に改定をされたODA大綱においても、こうした法整備を支援する必要があるということ、これが閣議決定の中にありますので、御意見をしっかりと踏まえていきたいというふうに考えています。
●上川委員 再犯防止に関しましてお尋ねいたします。予想以上に犯罪の発生が増加しているわけですが、同時に再犯率というのもなかなか厳しい数字になっているというふうに理解しています。そういう意味では、再犯を防止するというのは喫緊の課題であるというふうに思っておりまして、それも総合的、重点的に取り組むということが大切ではないかと思っています。
それに対して、やはり受刑者にとっては、手に職をつけて、できるだけ円滑な社会復帰ができるようにすることが再犯防止に役立つことであろうと思います。そういう意味では、やはり刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律のもとでは、受刑者の処遇は、その改善更生及び円滑な社会復帰を図って、もって再犯を防止することを目的としているわけであります。個々の受刑者の資質に基づきまして、いろいろな職業訓練とか、あるいは各種の指導というものを今実行しているわけでありますけが、最近、その枠組みの中に科学的、体系的なプログラムを開発して実施していることが特徴でございます。
新しい法律のもとで新たに導入された改善指導については、全受刑者を対象とした一般改善指導と、特に薬物に対する依存があるなどの事情を有することによって改善更生及び円滑な社会復帰に支障が認められる受刑者に対して実施する特別改善指導というのがこれに当たるのではないかと思います。現在、この特別改善指導として、標準的なプログラムに基づいて、薬物依存離脱指導、暴力団離脱指導、性犯罪再犯防止指導、被害者の視点を取り入れた教育、交通安全指導、あるいは就労支援指導などの類型別に指導を行っているわけであります。今後とも、これらの改善指導のプログラムの充実、社会のニーズにかなった職業訓練種目の新設等を初め、処遇内容及びその実施体制の充実強化を図って、再犯防止に一層効果的な受刑者処遇を行うように努めてまいりたいと考えている次第であります。
<犯罪被害者等基本計画について>
現在、基本計画にのっとり、各省庁が
258の施策に取り組んでおります。とりわけ法務関係では、損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する、いわゆる附帯私訴の制度、また犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度ということで、それぞれ二年以内に検討すべき重要課題となっています。
去る9月6日、刑事手続における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るための法整備ということに関しまして、前杉浦法務大臣が法制審議会に諮問をなさったことがございまして、
10月3日に第1回目の審議が始まったところです。自民党においても、法制審の検討の進捗に合わせて随時会合を開き、並行した議論をするということで頑張ってまいりたいと思っていますので、法務省としてもどうぞよろしくお願い申し上げます。
基本法が施行され、今は半数近くの刑務所で被害者の皆さんが矯正教育の一端を担われる取り組みが始まっているということです。こういうことにつきましては、その効果も十分に観察、吟味していただき、検証していただきながら、全刑務所で展開していただく、先ほどの監獄法のプログラムにそういうものを組み込んでいただくということが、大変大事ではないかと思います。そこで、被害者の視点を取り入れた教育についての基本的なお考えと取り組みの現状につきまして、最後にお尋ねいたします。
そういう観点から、刑事施設におきましては、特別改善指導の一類型として、被害者の視点を取り入れた教育を全施設で実施しておりますし、具体的に申しますと、平成十六年度に開催をいたしました、被害者の視点を取り入れた教育研究会の意見をもとに策定した標準プログラムに基づき、被害者やその家族等の心情を認識させ、被害者等に誠意を持って対応していくとともに、再び罪を犯さない決意を固めさせることなどを目的として、視聴覚教材を活用した指導を行うほか、被害者の方等による講話や講義の機会を設けてございます。 被害者や支援団体の方々をゲストスピーカーと呼んでおりますけれども、こうしたゲストスピーカーによる指導におきまして、心の傷とか苦しみや悲しみ、さらには経済的負担の大きさなどを具体的に話していただくことによって、被収容者に内省を促し、罪の意識を覚せいさせていく、そういうようなことをやっておりますし、こうした教育の充実に努めていきたい、そのように考えてございます。
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