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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

週刊東洋経済 2008年5月17日号

 

子ども政策を問う

 

深刻度を増す少子化と、改善が見られない子育て環境・・・。政府の新政策は、ラストチャンスともいえる。その担当閣僚を直撃した。

「政労使合意」で風穴   企業トップは意識改革を

内閣府特命担当大臣(少子化対策)   上川 陽子

―― 政府は昨年12月、「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略」を打ち出しました。そこでは、保育などの子育て支援のみならず、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現が詳細に盛り込まれ、国民や企業を巻き込む包括的な取り組みの必要性がうたわれています。重点戦略は、従来の政策にない広がりを持つ一方、これまでの政策が少子化の歯止めにならなかったこともあり、依然として実効性は疑問との指摘も少なくありません。

1980年の合計特殊出生率は、ひのえうまの年(66年)を下回る1.57に低下しました。その「1.57ショック」を契機に、政府では「エンゼルプラン」をはじめとした累次の対策に取り組んできました。にもかかわらず、2005年には出生率が1.26に低下し、その後下げ止まっているとはいえ、今後についてはたいへん心配しています。

これまでの政策がまったく功を奏さなかったわけではありません。ただ、今回は、政策の中で足りなかった点を分析したうえで、最も重要な部分を重点戦略として打ち出しました。最も強く問題意識を打ち出したところは、就労と結婚・出産・子育ての二者択一構造の解消です。働きたい人が働き続けることができる社会、そして、仕事と子育てを両立できる社会、それを何よりも実現していかなければならない。さらに政策の実現には一定の公的支出が必要だということで、追加的な所要額として「1兆5000億〜2兆4000億円」という数字も明記しました。

―― 重点戦略では、「育児休業と保育での切れ目ない支援」という説明の仕方で、保育や学童保育(放課後児童クラブ)の大幅な拡充の必要性が強調されていますね。

重点戦略のとりまとめに続く今年2月には、福田康夫総理からの指示があり、保育サービスの利用割合について、10年後の数値目標を定めました。特に今後3年間は団塊世代のジュニアがちょうど40代に差しかかるため、この時期を逃してはいけないということで、「集中重点期間」に定めました。そのうえで「新待機児童ゼロ作戦」をとりまとめ、「保育サービス利用児童数100万人増」「放課後児童クラブ登録児童数145万人増」を政策目標として掲げました。

国民の願いの実現には

相応の金額が必要

―― 必要な金額を明示したことは画期的ですね。これまでの政策では少子化の克服に不十分とのメッセージにほかなりません。

国民の皆様にはさまざまな希望があります。これまで女性の多くは、働き続けたいと思いながらも、第1子出産時に約7割が退職していました。その一方で男性の育児休業取得率はわずか0.5%にすぎません。ですから、女性が希望どおりに仕事を継続できる、あるいは短時間の正社員勤務も可能になる、そうした希望を実現していくには、それに応じた子育て支援へのニーズも高まっていく。そのための社会的な基盤を作るとなると、相応の財源が必要になるということなのです。

わが国と同様、少子化に直面してきたドイツではここ数年、育児休業や保育の充実に力を入れてきました。その結果、出生率が1.45(07年)に回復した事実もあります。

―― 国民の希望をかなえるためには、企業も相当の努力が必要になりますね。

これまでも企業は、仕事と生活の調和に取り組んできました。ただ、それが一部の企業にとどまり、社会全体への広がりは欠けていました。広がりを持たせるには、企業の自主性を尊重しながらも、国や自治体、企業、国民がそれぞれの役割を担って取り組むための合意形成が必要です。そこで、仕事と生活の調和について、昨年12月17日の官民トップ会議で、「憲章」と「行動指針」を策定しました。政労使による議論のうえでの合意ですから、今後非常に大きな力を発揮すると思います。

たとえば、父親が育児を分担するには、企業全体が人事や経営環境を変えていかなければ実現できない。それなくして、子どもを産み育てることはできないのに、その点がネックになっていました。そこに、政労使の合意で風穴を開けていきたい。

そのためにも、特に企業のトップの方々には、ワーク・ライフ・バランスについてしっかりと意識を持っていただかなければならない。そして、20〜30代の人たちを動かす管理職の皆さんにも、前向きに取り組んでいただく必要があります。

中小企業も実現可能

頑張る企業を後押し

―― 掛け声だけでなく、後ろ向きの企業に対するペナルティも必要ではありませんか。

労働法規に違反する長時間残業については罰則が必要ですが、働き方の見直しのためには、むしろ意識改革や経営改革が有効だと思っています。ペナルティについては、憲章や行動指針の策定段階でもさまざまな意見がありましたが、頑張るところを応援していくほうがいいという結論になりました。

―― 中小企業からは、それどころではないとの反論もあります。

余裕がないとの話もありますが、複数の企業が集まって、事業所内保育所をつくることも可能ですし、開設費用や運営費の助成制度もあります。そうした方向に政策を誘導していくことも非常に大事です。

私は、今回の憲章や行動指針をつくるため地方の企業にヒアリングをしましたが、ある会社は、15年も前からワーク・ライフ・バランスの取り組みをしていたことを知りました。それ以前の極めて悪かった定着率を改善するために、育児休業や30分単位での育児短時間勤務制度を設けたりして、ワーク・ライフ・バランスを実践していました。その企業の従業員数は20〜30人と聞きました。

そして、努力の結果、定着率が高まり、技術の伝承も可能になった。私はこの話をお聞きして、たいへん感銘を受けました。ですから、大企業だから可能だとか、中小企業では無理だというふうに決めつけず、個々の会社が自社の事情に応じて社員を巻き込んでほしい。トップに意思決定していただき、政府としては、頑張っている企業をしっかりと応援していきます。

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