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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

宏池会五十周年

2007年5月21日

 

私が所属する宏池会では、今年創立五十周年を迎えたことを記念して、本日、東京において記念式典を開催しました。

私は実行委員の一人として記念誌の編集を担当し、ジャーナリストの皆さんから宏池会の歴史にまつわる数々の興味深い証言をいただいたほか、若手議員による座談会の司会を務めました。また、それらを踏まえながら、記念誌巻末の編集後記をまとめました。以下にその内容をご紹介いたします。

 

 

 

若手議員座談会

今、宏池会から

 

衆議院議員 岸田文雄

衆議院議員 宮腰光寛

衆議院議員 小野寺五典

参議院議員 林芳正

衆議院議員 上川陽子(司会)

 

五十周年を迎えて、宏他会の先輩がどのように政治に立ち向かってきたのか、多くの皆さんからお話を伺いました。そこで強く感じたのは、保守本流・宏池会のよき伝統を現在に受け継ぎ、未来に生かして欲しいという「叱咤激励」でした。

 次の時代に向けて新たなスタートを切るために、福川さん(財団法人機械産業記念事業財団会長)の巻頭文や宏池会を注視し続けたジャーナリストの証言を踏まえて、宏池会の中堅・若手の会員が議論を重ねました。

 

宏池会の伝統 ロングレンジの政策提言

福川論文: 「宏池会は時代先取の政策提言を数多く発表してきた知的集団である。池田内閣が掲げた所得倍増計画は池田氏自身の“月給二倍論”を成長理論に結びつけ、政権構想に練り上げられたものである。大平首相が推進した環太平洋連帯構想、総合安全保障政策、田園都市構想、家庭基盤の充実、文化の時代などの提言は今日の時代にも通じる先見的なものであった」

 

証言: 「外部からも人が集まって、毎週一回の勉強会を続けていて、それがその時々の政権の政策の骨格部分に反映されてきた。頭が下がるほど休まず続けていた」

上川  宏池会を言い表すのにしばしば用いられる「保守本流」という言葉。そもそも保守本流とは何ぞや。堀内会長は「伝統の上に創造を、秩序の中に進歩を求めること」と定義しました。守るべき文化と大きく変化していく文明を調和・統合し、過去から未来へのロングスパンの時間軸の中で、我々は今何をすべきかを明らかにし、それを実行していくこと……。これが宏池会の伝統ならば、我々も常に未来を見通した政策のあり方を討議し、発信していかなければならないのではないでしょうか。

岸田  選挙や政治資金における派閥の機能が終わったといわれている時代に、宏池会の存在意義、宏池会に所属する意味はどこにあるのか、我々自身がしっかり整理しなければならない。現在は党にも政調をはじめとして政策を議論する場はたくさんありますが、目の前の課題に汲々としているのが現実。そんな中、ロングスパンの時間軸で政策を考える、これが現代の派閥に残された唯一の存在意義になると感じています。

宮腰  大平会長が大切にした「エターナル・ナウ(永遠の今)」も、過去を省み、将来を見据えた上で常に「今」なすべきことを考えようという姿勢を表現する言葉でした。大平会長が主導した九つの研究会の提言が、その後、中曽根首相など他派閥出身の首相にも引き縦がれ現在に生きているという事実を、もっと重く受け止める必要があります。

 

 私も、名実ともに政策集団として活動すべきと考えています。宏池会も政策委員会で継続的に活動をしてはいますが、それが外部に発信されていない。

小野寺 「お公家集団」とか言われていますが、それでいいと思うんです。一味違う純情さとか青くささをたくさん持っている人たちの集まり。真正面から日本や世界の未来を考える集団。それが宏池会らしいと思う。

 

宮腰  環境、平和、地方、少子高齢社会……大きな概念のテーマはいくつでも浮かんできますし、大平会長の研究会のように日本を代表する学者や研究者を網羅して研究する方法もあります。財界やマスコミ、メンバーを公募することだって考えていい。

 差し迫ったテーマに対する勉強会や研究会はいっぱいあって、役所の作った資料が山になっている。あまりにあっち行ったりこっち行ったりして目先のことで手いっぱいという状況の中でロングスパンのテーマをどのようにして設定するか。テーマ出しをするための勉強会、ブレーンストーミングが要るんじゃないかな。骨太の政策の全体像を見渡して、そこで出てきたテーマについて深めていくというようなストーリーです。

岸田  例えば憲法九条とか、集団的自衛権、靖国問題、愛国心、家族……これらの価値観について国と個人との距離感等、すぐに答えなんか出ないテーマを議論しているということ自体が、宏池会の存在感を示すということにならないかな。

 

 政策集団としての密度を高めるための議論はとてもいいと思います。

 

小野寺  生命倫理の問題、終末医療をどうするか。これは個々の政治家が人間としての存在をかけて議論しながら深めていく話ですよね。今年春の代理出産の問題も、生命の根源に係わってくる話です。ところがこういう政策に対してその場限りの議論にとどまっている。私たちが生命というものをどう考えていくか問いつめていかないと、終末医療、代理出産、生殖医療の問題も含め、国民に納得される解は出ません。このような議論は宏池会だからこそできると思う。

上川  今、挙げられたテーマはいずれも自民党の中で対立していてまとまり切れないものばかりです。価値観に係る部分だから、ぶつかったままコンセンサスを導き出せない。宏池会らしく、対立している問題にじっくり取り組み、自然に柿の実が熟するように熟成させて、国民合意を形成する。

 

宮腰  挑戦的になりますけれど、安全保障、憲法、集団的自衛権の問題については何らかのメッセージを出さなければならない。池田会長以来のリベラルな主張が国民の皆さんに届かなくなっていますから。

上川  結成五十年を機に、まず国のあり方についての全体像と骨太の政策テーマを洗い出し、粘り強く取り組む。それが宏池会の存在意義にも繋がることになりますね。外部の方々にも大いに参加していただき、閥達な議論の場として政策勉強会を立ち上げましょう。

 

宏池会の伝統 リベラルな平和主義

 

福川論文: 「平和国際国家としての地位を揺るぎないものにしたこと。宏池会には平和憲法を基礎に平和主義に徹し、日米安全保障条約を誠実かつ効果的に運用し、かつ、国際連合など国際機関との関係を重視する伝統があった」

 

証言: 「池田会長は、武張った日本ではなく、経済的に力を付けて世界と仲良くし、尊敬される日本にならなければならないと常に考えていた。その思想は前尾さん、大平さん、鈴木さん、宮澤さん、加藤さんから古賀さんまで、確実に受け継がれてきた」

 

証言: 「今もし池田さんや大平さんが生きていらっしゃっても、経済成長を達成した余剰分で自主防衛路線に転換しようとは考えない。自主防衛は、結局、核の論理になる。近隣諸国から、日本はやっぱり核武装するのかというふうに見られがちだし、日本脅威論が高まって、近隣関係はうまく行かない。日本は発展したものを近隣諸国に還元し、東アジア全体の中で厚みのある外交政策を展開しながら多角的な東アジアの防衛といった構想を目指したと思います」

 

上川  宏池会の伝統としてよく指摘されるのが、リベラルな親米・平和外交路線です。 一 九五三年、日本の再軍備を要求してきたアメリカに対し、日本側の密使として、池田大蔵大臣が宮澤会長と一緒にアメリカへ渡り、「生活水準を切り下げても防衛をやれという考え方は絶対にダメだ。むしろ国民の生活水準を引き上げ、守るに値する生活基盤を作り上げることこそが健全な防衛意識を高める」と強く主張した。そういう考え方が基本にあったからこそ、再軍備や憲法改正を主張した岸先生の系譜に対して、池田会長は所得倍増政策、月給二倍論を掲げ、経済大国への道を目指しました。今の日本は、こうした流れとは反対方向に進みつつあるように思いますが……。

宮腰  確かに、外交におけるリベラリズムの反対概念はリアリズム、バランス・オブ・パワー的な考え方で、相手が「核」を持てばこちらも「核」を持とうという立場。これらは、軍部の脅迫にも屈せず、「小さな島国の日本でいい、背伸びせず国力に見合った国としてやっていこう」という石橋湛山の思想を受け継いだ宏池会の思想とは異なるわけです。いま一度マクロ的な視点から外交政策におけるリベラルの位置付けについて確認する必要がありますね。

 お互いの相互信頼を深めることによって、対立の原因を取り除いて行くのがリベラル。リベラリズムとリアリズムという二つの概念の間を、現実の世界は行ったり来たりしている。とはいいつつも、冷戦が終わり、東西対立とはまったく違う構図の下、アメリカであんなに簡単に世界同時テロが起こる今日、さてリベラリズムとリアリズムの対立構造が同じ形でまだ存在するのか……。宏池会の外交政策とは何か、対アメリカ外交、対アジア外交など、我々が主導して中長期の外交戦略を作っていく必要があると思うんですね。

上川  宏池会から出てくる政策は、前のめりではなく、落ち着きのある腰を落としたものでありたい。宏池会を見続けたジャーナリストの皆さんは異口同音に、つま先だった前のめりの姿勢で政治が進むと、民主主義の根幹である社会のまとまりを損ない、ポピュリズムさらにはファシズムを招くことにはならないかと懸念しているようです。

小野寺  テニスでも、重心を低くすると、あらゆる方向から来た球に対処できるんですね。前のめりの姿勢は、一方向に張っているから、そちらから来た球には対処できるかもしれないけど、違った方向から来た球には対処できない。

宮腰 海図のない時代には、どこからどういう球が来ても受けられる姿勢を保つこと。前のめりではなく、柿の実が熟するタイミングを冷解に見極めるように、じっくり国民的なコンセンサスを形成していくことが大切です。

 先日お聞きした河野衆院議長のお話で印象深かったのは、「二本のひもを捩ると非常に強力な縄になる……」。河野さん自身はリベラルな方ですが、保守は駄目とは言わないんです。保守とリベラルがあるから自由民主党が強い。リベラルが弱いと党も弱くなり、日本が危ないとおっしゃっているんです。

 

ソフトパワー重視のアジア外交

 

上川 アジアに対する外交戦略は、宏池会がメッセージを発出していくべき分野だと思うんです。池田会長は当時、国交がなかったにもかかわらず、中国をできるだけ早く国際社会の中に迎え入れたいと考えていて、その思いを大平会長が実現に導きました。すばらしく先見的なビジョンがあったわけです。

岸田  アジア外交においてもいろんな考え方がある。それぞれの考え方を認め合い、尊重し合うというのが我々宏池会のみならず、自民党の英知だったはずなんです。ところがどうも最近は一方的な考え方が強くなり、なおかつ多様な考え方を認め合わないような雰囲気もある。これに対する危機感みたいなものがあって、林先生たちとアジア戦略研究会という新しい研究グループを立ち上げたところです。

小野寺  日本は、アジアの中で信頼され、好かれる国になることが大切だと思います。日本が進むべき方向は、強い軍事力を持ったり、アメリカと組んで安全保障の傘を広げるということではない。私は文化ということをよく言うんですが、日本のソフトコンテンツは世界中で受け入れられている。特にアジアでは、例えば「キャンディ・キャンディ」などが大人気なんです。本音で好きな国はどこかというアンケートで、実はアジアの若い人たちの間では日本の人気が意外に高い。ODAに関しては、東南アジアも卒業国になってきたので、これからソフト面や環境技術などの面でお手伝いをしていく、そういう役割があるという感じがします。

 

 ソフトパワーを通じて好かれる国になるというのは大事なことです。冷戦が終わって、脅威の体系が変わり、ソフトパワーが一つのツールになってきている。もちろん、日本は「ポケモン」 があるから日米安全保障はもういらない、そういう遇択肢ではない。

  アジアの問題は、日本とアメリカと中国の関係を三角形で考えるべき、といろんな方がおっしゃっています。しかし日米の線と日中の線は、線の種類が違う。日米は文明や民主主義を共有し、安全保障の基礎的な部分を共有する。日中は歴史や文化を共有している。それらを同じ種類の線に近付けていくのが、両方の国と結びつきを持っている日本の役割。そこで、ソフトパワーは非常に大事だと思うんです。

宮腰 日米中がいい関係を保っていることが、他のアジアの国にとっても望ましい状況です。彼らは「日本と中国のどっちにつくの」と踏み絵を踏まされるのがいちばん嫌なんですね。日中が仲良くやっている、そういう状況を作らないと、アジア共同体のような話はうまくいかないと思う。中国、アジアのいずれともある意味で共通点を持っている日本の役割がとても大事であるという認職に立てば、やっぱり宏池会がアジア戦略をリードするということだと思います。

 

岸田  日本は、中国、韓国などのアジア諸国と共存共栄もあり、競争もありといった経済関係をしっかり作っていく。そうした全体のバランスの中でリーダーシップを発揮できるかどうか。これは日本の今後の行き方として大変重要だというふうに思います。最近の外交を見てると、どうも大人の辛抱強さが失われつつあるのかな、といった寂しさは感じます。

上川 ソフトパワーという意味では環境問題、感染症予防、災害対策などの分野もある。やっぱりロングレンジに東アジア共同体の形成を大きな視野に入れながら、そのことを実現していくためにはどうしたらいいのか。宏池会が具体的に戦略を提起しなければならない分野ですね。 

    

宏池会の伝統 民間の活力を生かす経済政策

福川論文: 「日本経済の成長基盤を強固にしたことである。所得倍増計画を掲げて登場した池田内閣は、国民に経済活動の努力の方向を示し、”寛容と忍耐“の政治姿勢によって国民に希望と連帯感を呼び起こした」

 

証言: 「政府がある程度方向性を示すことがあるけれども、基本的には国民一人一人が自立し、民間活力。企業が伸びていくことについて政府は邪魔をしない、むしろそれを助けていくという考え方だった」

 

上川  次に内政面に話題を移させていただきます。グローバリゼーションの潮流の中で世界規模の企業間競争は激化し、国内の空洞化、格差の拡大が進んでいます。急速な高齢化もあり、今後は日本全体としての国力、競争力の低下が懸念されます。日本がこれからも繁栄を続けていくためには経済合理主義の徹底が不可欠との考え方がある一方、所得格差、地域格差の拡大が、これまで日本の強みであった社会全体のまとまりを分断し、社会を不安定なものにするのではないかと危倶されています。こうした動きに対して我々はどのように対応すべきでしょうか。

 先ほど、宏池会のリベラルな外交姿勢が話題になりましたが、リベラルには内政に関しても特別な意味があります。リベラルの反対は、昔はソーシャリズム(社会主義)だったんです。社会主義に対する自由主義、封建主義に対するリベラルだったんですが、自由主義が主流になってくると、少なくとも西欧では、今度は自由主義がコンサバティブ(保守)になりました。これに対しリベラルは完全な市場原理主義ではなく、もう少し修正資本主義的なことをやろうというふうに概念が変遷してきた。

 サッチャーさんやレーガンさんの経済改革があり、小泉さんの市場経済が完成したとすると、その後のリベラルの果たす役割はどういうことになるのか。ソーシャリズムとは違った、自由主義の中のリベラルというものを再定義していく必要が、我々にはあるんです。

小野寺  鈴木善幸先生の感化を受けて政治を志した私は、「貧しいことを憂うるのではなくて、等しからざるを憂う」という先生の言葉を大切にしたいと考えています。歴代の宏池会の政策は、軍備を抑制し国民生活を充実させていこう、他国に対してコミットするよりは、国内の経済、国民生活を重視していこうというスタンスでした。

 この視点から見ると、現在の市場主義、競争原理主義には問題があるのではないでしょうか。真面目に働く多くの人々が、この国で生きていくことに安心感を持っていただける方向に政策を誘導していくことが大切です。これまで自民党の政策は、ある時は右に振れ、ある時は左に振れ、という振り子の役割を演じてきた面がありましたが,今は宏池会が、国民が納得し共感できる方向に自民党の軌道を修正するという大きな役割を担う立場にあると感じています。

 

良質な中間層の厚みを再構築

 

岸田  池田勇人総理の所得倍増論は、パイを大きくすることによって格差の解消を図ろうとしたものです。「貧乏人は麦飯を食え」という発言がひんしゅくを買いましたが、真意は「今は貧しいから麦飯でガマンしよう、頑張って月給を二倍にして、ご飯が食べられるようになろう」ということ。希望を掲げ、国民の意欲を引き出しました。その結果、およそ九割が中流意職を持てるような民主主義の基盤を作った。このような格差是正は、宏池会の一つの伝統でもあるわけだけど、そうした伝統が今の時代の中でどう位置付けられるのか、もう一度再確認する必要がある。

宮腰  池田さんの戦後の経済重視路線が良質な中間層を非常に厚くし、それが日本の安定した国づくりと経済成長の支えになってきた。ところが、その大切な中間層が弱まっていることが大問題なのです。企業は徹底した国際競争の枠の中で活動しているわけですが、宏池会の伝統は、そうした市場主義の陰の部分についてもしっかりと対応していく必要があるということですね。

岸田  良質な中間層の厚みは、日本のみならず民主主義社会の基本です。これがないと健全な民主主義は育たないので、現代においてもしっかりと考えていかなければいけないと思います。今、どうも日本の社会に不安定なものを感じてならない。この辺の危機感は、国民の皆さんが強く感じているのではないでしょうか。

 良質な中間層の厚みを再構築していくためにはどうするのか。宏池会の伝統なども頭に置きながら考えるとするならば、やはりある程度、経済の拡大を図りながら、具体的な政策でできるだけ格差を感じさせないような制度を作っていく。この二つをどう使いこなすかということでしょう。

小野寺  池田総理が最晩年に環境問題を大変に心配していたということです。経済の拡大を優先した結果、生み出された負の遺産としての環境問題。しかし現在はどう逆立ちしても、もはや日本経済の急拡大はあり得ない。その一方で社会保障を中心に制度的な手当をやっていかなければいけない。それらのバランスをいかに取り、中間層の厚みを復活させるかという問題だと思っています。

 

上川  グローバリゼーションの流れの中で、社会の調和を保ちながら経済を発展させていくという命題。これらは五十年前にはなかった、政治の新たな挑戦ですね。

 

民が公を担う社会システム創り

 

上川  企業は国際競争に勝ち残るために、ソーシャルコストも含め、コストをできるだけ圧縮し、企業減税等で競争力の強化を図ろうという流れになっています。こうした政策は、日本企業がグローバリゼーションの競争に勝ち残るために非常に大事なことなんだけれども、そのことが税収の落ち込みや所得分配の不均衡につながりかねない。これらの点を考慮しながら、何か新しいメカニズムを考えないとうまくいかないのではないでしょうか。たとえばNPOをもっと活用するといったような……。

 今、公益法人改革で昨年成立した法律の政省令を作っているんですが、これは「公」の領域に属する仕事を「官」だけでやってきたという明治以来のやり方を転換し、「民」が「公」を担うという考え方。その時にNPOも当然、同じ方向で一定の役割を担っていくと思うんです。

 

宮腰  廃棄物を出さないリサイクル社会、講などを通じた町内の助け合い……江戸時代から昭和も十年代まで、民の知恵が公のかなりの部分を担っていたようですね。

一九四○年代に国民総動員体制の時代があって、それ以前からずっと日本はそうだったんじゃないかというイメージを持ちがちなんですが、江戸時代の文化とか明治初期の自由な感じを見ると,経済的に自立している人たちがお互いに助け合うというモデルが実はあった。日本には官に頼らない民の知恵があったんです。

 私はそのことをソーシャル・キャピタルと呼んでいて、要するに地域の中における人と人の絆の総和なんです。

宮腰  自分の家の前に大きなゴミがあった時に、市役所に電話をして何とかしてくれというのか、みんなでお掃除しましょうというのかの違いですね。圧倒的に後者の方がコストは安い。自分たちがやったという満足感も実はある。

 ところが市役所に要請すると、それが県に行き、国へ行くということになり、結果的に莫大なコストと官僚主義が必要になってくる。まずは自分たちで……という姿は、じつは私たちの記憶の中に実体験として残っている部分もたくさんあるんじゃないですか。昔から子供会とか自治会とか氏子とか、もっと昔で言えば講とかがあったんですね。自分たちで解決できますという、もともと日本はソーシャル・キャピタル大国ですね。それを現代風に言えばNPOということになります。NPOの活用は、政府のスリム化という意味でも、とても大事だと思っています。

 そのことを経済学的に言うと、外部不経済の内制化ということですね。例えば環境規制がないと、企業はグローバルな競争に打ち勝つためにいちばん安く効率的な方法で排ガスも出すし、公害をまき散らしながら生産する。だけど、それに規制をかけることによって企業内で問題を解決させる、つまり内制化させる。あるいは規制ではなく、あの企業は環境に優しいものを作っていると評価するということでもいいわけですね。そういう内制化によって環境に優しい新しいメカニズムができる。実は日本は一九七○年代、公害という名前でしたけども、一度乗り越えているわけです。世界最新の技術もあるし、規制のノウハウも持っている。それらのノウハウとソーシャル・キャピタルを組み合わせ、いかに効率的にシステムとしてやっていけるかというところに、日本は大きな潜在能力をもっている。

岸田  明治以来日本の社会は、公の活動に関し国がいったん民間のお金を吸い上げ、後で国から降ろしてくるというこの金の流れ、その意識の流れというのをずっと維持してきた。だから、NPOに対する寄付は、公を支える資金の流れを変える要素があるという意味で画期的だった。こうした民間から民間へのお金の流れ、経済の果実を配分する仕掛けを考える。国が社会主義的に全部仕切ろうとした岸内閣の系譜とは明らかに違う、宏池会の伝統。これからの政策の中にしっかり取り入れていくべきです。

 

新たな社会システムも日本のソフトパワー

 

小野寺  池田さんの時代から宏池会は地方分権というフィロソフィをもっていた筈です。自治体が円滑にいくように助けてあげるのが中央政府の役割。地方自治体に対して箸の上げ下ろしまで指図するべきではありません。

 こういう社会のシステム自体も、実はソフトパワーの一部なんですね。アジアでいち早く先進国になった我が国が、実はこういう仕組みでこんな課題を解決してきたんだ、という前例を今作っていくことが、十年、二十年後に他の国に対する強力なソフトパワーになり得る。

宮腰  民が公の仕事をどんどんやっていって、「ああ、自分たちもできるんだ」という実感を持てば、実は議会制民主主義の下でその予算配分にも何がしか変化が起きるはずなんですが、もうちょっと自分たちはパワーがもっとあるんだという実感を持てると思うんだけれども、なかなかそこまで育ってない。育ち切れてない。だからお金の面でもそうだし、市民の意識、参加して自分たちがこの国の担い手であるという意識を育てていくためにも、NPOの活動というのはものすごく大切だと思います。

上川  ロングレンジの政策で、日本をそういう方向に導いていくのが宏池会の責任ですね。

 さて、今日の座談会を締め括るにあたり、保守本流にふさわしい風格ある政治の実現をめざす我々の覚悟を改めて確認しておきたいと思います。

 先日、ある会合で古賀会長が「風格ある政治」について触れておられました。いま国民が真に求めているのは、テレビ受けするポピュリズム政治ではなく、国民に向かって根気強く真摯に語りかける政治。ルールを守り、倫理観と深い洞察に基づいて決断し、大胆に実行していく政治です。宏池会の発足五十周年に当たり、我々も伝統ある宏池会の一員として、風格ある政治の担い手としての志を、今一度新たにしたいと思います。

 

 

編集後記

 五十年前、泉のように湧き出した宏池会の流れがその後辿った軌跡は、まさに戦後日本の国づくりの歴史でもある。多くの先輩達がこの会に集い、国難に際しては知恵の限りを尽くして決断を下し、数々の難局を乗り越えてきた。しかし振り返ってみると、五十年という歳月にもかかわらず一貫した政治理念が底流し、それらが宏池会の伝統となって今日に引き継がれていることを私達は強く感じている。

 それとともに、私達にはいささか忸怩たる思いもある。日本の現在と将来に責任を負う私達は、果たして先人達のように困難を真正面から受け止め、果断に行動しているだろうか。そのために必要な力を蓄えているだろうか。先輩達の叱咤激励が心の底に響く。

 今、日本の政治を取り巻く環境は大きく変貌を遂げつつあるように見える。少子高齢化、グローバリゼーションの荒波、地球規模の環境破壊など、先人達が経験しなかった新たな課題に私達は取り組まなければならない。しかしこの五十年間、宏池会が日本の歴史風土の中で絶えず鍛え受け継いできたもっとも大切な伝統は、海図なき航海の羅針盤としてこれからの時代においても有効なはずだ。それは私達の確信である。

私達が宏池会の基本理念と考えるものは次のとおりである。

 

1.国民への信頼感を基礎とする謙虚な政治 

 

 政府が果たすべき役割は、繁栄の基礎となる経済・社会インフラを整備するこ と。あとは国民や地域社会の自立心と主体性に委ねることが、結果的に日本 を柔軟で強靭なものにしていくはずである。

 

2.国民的な合意形成を重視する熟柿の政治

 憲法のあり方など国の大枠に関わる問題については、政治が前のめりに国民 を誘導してはならない。最終的に選択するのは国民である。幅広い議論と合  意形成を待ち、国民の一体感が損なわれないよう慎重な姿勢が求められる。

 

3.アジア重視の政治

 

 外交においては、日米同盟関係に基本をおきながらも、アジア近隣諸国とも長 期的視点に立って信頼関係の構築に取り組むべき。そのことは東アジア地域 の安定化や地域共同体の形成に資するはずである。

 

4.守るに値する国づくりを優先した安全保障観

 

 国を守るうえで何より大切なのは、国民一人ひとりが自分の国を守ろうという  気持ちになること。国民にとって守るに値する社会基盤を作り上げることがで  きれば、国民の間に健全な防衛意識も育つはずである。

 

5.経済至上主幾への警戒心 

 

 戦後の高度成長を演出した主役は宏池会であったが、経済成長が生み出す 歪みについていち早く警告を発したのも宏池会。労働争譲の激化に際しては  労働分配の適正化で対立の鎮静を図ったほか、池田首相は環境政策の必要 性を遺言した。これらのことはグローバリゼーションの下での格差問題や地球 規模の環境破壊に直面する現代に示唆を与える。

 

 宏池会は五十年間、一貫して国の骨格となる政策について重責を担ってきた政策集団である。今回、若手国会議員の座談会を通じ、以上のような五つの伝統が一人ひとりの議員の中にDNAの如く、現在も脈々と受け継がれていることを確認することができた。また現代社会の抱える課題についての捉え方、危機意識を共有していることを確認し、ロングスパンの政策について勉強会を立ち上げるべきことについても意見の一致を見た。

 宏池会創立五十周年に当たり、私達は政策集団として新たなスタートを切る決意である。

          宏池会五十周年実行委員会  衆議院議員  上川 陽子

                              衆議院議員 小野寺 五典

 

宏池会にかける私の思い

 

『対話と協働による民主主義』の実現をめざす

                     上 川 陽 子

                         静岡一区

                         党政調副会長

                         衆院法務委理事・拉致特委理事

                         前総務大臣政務官

 

大きな世界潮流の中で、国民が疎外感や孤立感に苛まれることのないように、

温かな地域社会の中で、若い世代が安心して子育てすることができるように、

政治が責任をもって国と地方自治体、民間NPO、

そして国民一人ひとりと信頼のスクラムを組み、

新しい国づくりに協働して取り組むことが大切になると確信します。

 

国民との『対話と協働による民主主義』の実現をめざし、

伝統ある宏池会の一員として誇りと気概をもって活動します。

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