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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

OhmyNews若手国会議員リレーインタビューに登場

 

2006年10月20日

 

ジャーナリスト鳥越俊太郎さんが編集長を務める OhmyNews(オーマイニュース)に私のインタビュー記事が掲載されました。このシリーズは当選3〜5回を数える「国会議員として地道に汗を流している中堅議員たち」を対象としたもので、企画の狙いは、「実際に政治を動かしているのは、幹部だけではないし、ましてやマスコミに登場する回数の多い議員だけでもない。・・・この連載では・・・真剣に取り組んでいる新進気鋭の国会議員に登場してもらい、問題の本質を“本音”で語っていただこうというもの」だそうです。私は3人目として登場です。

http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000002520

 

 

大転換期の中にいる日本 上川陽子氏

        安倍政権の行方を探る 〜若手国会議員リレーインタビュー〜【第3回】

 

 「安倍政権の行方を探る〜若手国会議員リレーインタビュー」の3回目は、静岡1区選出の衆議院議員、上川陽子氏に話を聞いた。
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上川陽子氏

上川陽子氏

撮影者:河野浩一

 上川陽子氏(かみかわ ようこ)
[プロフィール]
1953年3月1日静岡市生まれ。衆議院議員。東京大学教養学部教養学科(国際関係論専攻)卒業後、77年三菱総合研究所研究員となる。88年ハーバード大学大学院(政治行政学修士課程)修了。滞米中、ボーカス米国上院議員の政策立案スタッフとして活動の後、政策コンサルティング会社を設立、国際情勢・エネルギー・地球環境・地域問題など、幅広いテーマについて政府・自治体に政策を提言。2000年の総選挙に静岡1区から無所属で出馬、初当選。現在3期目。自民党政務調査会副会長。党女性局長、年金改革小委員会事務局長、総務大臣政務官等を歴任。ふたりの子どもの母でもある。
オフィシャルホームページ: http://www.kamikawayoko.net/


改革の詰めの作業が安倍新内閣の使命

――小泉内閣の5年半をどう見ていらっしゃいますか。

上川 小泉内閣は改革を前面に打ち出し、これまでの社会の仕組みや国民の意識を壊すことで改革への扉を開けました。小泉さんはそれを懸命にやった方だと思いますね。その意味ではすごい力を発揮しました。
 一方、改革は痛みを伴うという意味で今は格差の問題が出ているけれども、それはある程度予想されたことでした。改革の過程では必ず弱者と強者が出てくる。それに対してどう対応していったらいいのかをちゃんと考えなくてはいけないと思っていた人は私も含めて多かったはずですが、その部分が小泉内閣の間にはあまり見えてこなかったといえるでしょう。
 もうひとつ、大きな課題として残ったのは、やはり周辺各国との関係です。国内の改革と並行して周辺諸国との関係も変化しましたが、日米間の良好な関係にやや依存しすぎた面もあり、周辺諸国とは新たな問題が発生しています。この克服も今後の課題ですね。

――アジアとの関係という意味ですか?

上川 単純にアジアというわけではありませんが、特に中国・韓国との関係が変わりました。

――確かにそのあたりが安倍内閣の課題として残されているといえますね。ところで、圧倒的な支持を得て安倍内閣が誕生したわけですが、その原動力となったものは何だったのでしょうか。

上川 やはり国民の中に「小泉総裁の後継者は安倍さん」という流れがあったということでしょう。それは、小泉政権からの改革路線を基本的には変えるべきではないということだと思います。
 ただ同時に、自民党総裁選では、谷垣禎一先生と麻生太郎先生のおふたりにもある程度の支持が集まりましたし、地域の中にも、自民党の中にも、先ほど申し上げたような格差の問題、アジア外交の問題等について懸念する声がある。つまり、ただ単に小泉内閣の路線を継承すればよいというわけではない。そうした点が安倍新内閣の今後の課題になるのではないでしょうか。

――今の話につながりますが、安倍内閣への期待や課題はどの辺りにあるのでしょうか。

上川 やはり改革の流れは止めるべきではないので、その辺りはしっかりやっていただきたいと思います。ただ改革とはいっても、その中には社会の基本的な枠組みの変更から、そうした変化の先にある血のかよった細部の仕組みづくりまで、ものすごく広い幅がありますよね。
 小泉内閣で骨太の改革はやってきたけれども、たとえば社会保険庁の改革など国民生活に身近な部分の改革には行きつかないうちに終わってしまいました。ですから、安倍新内閣では改革の詰めの作業を丁寧にやっていかなくてはいけない。国民の望む改革の方向性を、隅々の末梢神経の部分にまで行きわたらせていかなければならない。小泉さんが改革の扉を開けた後の社会全体の改革をさらに進めていくことが安倍内閣に与えられた使命だと思います。

地方分権・公務員改革はまだまだ入り口の入り口

――具体的な政策としてはどのようなことが大切になっていくのでしょうか。

上川 たとえば、中央集権から地方分権へという大きな流れは、まだまだ入り口の入り口という段階にあると思います。この点についていえば、中央と地方の権限や役割分担の見直し、それに見合った財源をどうしていくのか、これは税制の全体構造にも関わる問題です。
 また、公務員制度改革も大きな課題になっています。「地方ができることは地方に、民間にできることは民間に」と、小泉さんが強いメッセージを出しましたが、本当にそのことが社会の中にしっかり根をおろし始めているかといえばまだまだです。地方分権の問題は、「官から民へ」という以上に厚い壁があると思うので、そこは注意深く取り組んでいきたいですね。
 私は総務省の大臣政務官を1年間やりましたが、非常に難しいと感じたのは、いわゆる「地方」をひとくくりに「地方」とくくれないということです。いろいろな地方があって、それぞれの顔がちゃんと見えた形で地方分権を進めていかなくてはならない。一部の方たちはわかっていらっしゃるけれど、私たち政治家にも現場の状況がしっかり見えていない。まだ、一般論・抽象論の域を出ない議論が多いように感じています。
 たとえば、それぞれの自治体が支払っている県民や市民1人当たりの人件費負担はどうかと考えると、地域によって相当の差がありますよ。やはり人口の多い都会ほど相対的に負担が軽く、地方へ行けば行くほど負担が重くなる。そうした条件の違いをまったく無視して全部都会の水準に合わせようとしても地方は成り立ちません。
 東京、千葉、神奈川のような首都圏とそうではないところの自治体の運営をどのような考え方でやっていくのか……経済力、人口密度、人口構造などその地方の特色に合わせてやっていかなくてはなりません。
 国としては、すべての国民の幸せ度が均衡・平等になるようにしなければなりませんが、かといって国のお金を投入して全国一律の水準を達成すればいいわけでもない。それでは地方の自立心、自尊心が高まらないのですね。
 それぞれの地域がそれぞれの特色を持って頑張るからこそ、住民の皆さんが「ここに住んでよかった」と思えるようになるのではないでしょうか。ですから、基本的な考え方としては、東京の制度がいいとか、どこそこの制度がいいとかいうことではなくて、それぞれの地域の特性に沿ってやっていかなくてはいけない。そうした仕組みがどうあるべきかという点については、現状を正確に評価し、地方と国の役割を見直しながら、それぞれが誇りを持って暮らせる仕組みをつくっていかなきゃいけない。

――格差論もそういう面がありますよね。

上川 それはとても大切なことで、国民の幸せ度を政治が決めるということではなく、皆さんがどのようなときに幸せを感じることができるのか、どういう状態なら満足できるのかについてもっと議論していかなくてはいけないでしょう。
 今のままでは単線的というのか、どうしても「人間の幸せはこうあるべきだ」というような方向に議論が行きがちです。だけど一人ひとりの人間は違うわけだから、そこには大きな幅があるはずです。その幅を認めることができるような社会、よそとは違って当然だという意識を持つような社会になっていかないといけないと思いますね。

地方の現場から発信することの大切さ

――安倍さんの時代になり、とくに力を入れている分野、力を注いでいかれたい分野はありますか。

上川 今年の初め、この1年間、何をしようかなと考えたときに、地方から発信することがとても大切だなと思いました。
 そこで社会保障の分野については夜間医療の研究会を立ち上げることにしました。いま医療の現場では、医師、看護師、入院患者の数などの定数が決まっているため、夜間の時間帯の医療スタッフの人数が少なくなっています。実際に私の地元・静岡で現場を視察させていただいたのですが、住民の皆さんが安心して医療を受けられない状況も出てきている。本年7月、厚生労働大臣に対し具体的な政策提言を行いましたが、今後もこうした問題に力を入れていきたいと思っています。
 つまり地方の中から出てきている制度の矛盾や課題をうまく取り上げ、それを国政の場で揉(も)み、地方で試行的にやってもらって、うまくいけば全国に広める。そういった改革をあらゆる分野で進めていくべきではないかというのが私の考えです。

上川陽子氏

上川陽子氏

撮影者:河野浩一

 もうひとつ力を入れていきたいのは外交の分野ですね。具体的なテーマとしては海洋政策を取り上げ、これまでやってきました。大陸棚調査推進議員連盟の事務局長もさせていただいていますが、やはりタテ割りの弊害がありまして、海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約:1994年に発効。日本は83年に署名し96年に批准)が施行された後も、日本は戦略的な取り組みがすごく遅れています。東シナ海における中国・韓国との問題がクローズアップされていますけれど、大陸棚は海洋国家・日本にとっては領土・領海・領空とともにとりわけ大きな部分を占めていますし、貴重な海洋資源、食糧に直結する問題でもありますから、外交の大きな柱として真剣に取り組んでいく必要があると考えています。

 さらに、これまでに犯罪被害者支援のための基本法(犯罪被害者等基本法)を議員立法でつくらせていただきましたが、まだ積み残しの問題がいくつかありまして、そのフォローが私の大変大きな課題です。

――その積み残しの部分はどこにあるのですか。

上川 それは3点あります。まず、被害者の皆さんが司法の手続きに直接参画できるようにし、その権利を拡充していくということです。刑事事件では、国(検察官)が被害者の声を代弁して加害者の犯罪行為を処罰していきますが、被害者は傍聴席で悔しい思いをしながらただ聞いているしかないわけです。事件の当事者である被害者が刑事裁判に参画できないということはおかしな話ですよね。そこで被害者が法廷の場に参画できるよう法制度の改正を進めています。

 ふたつ目は、附帯私訴(注:戦前の民法にあった制度で、1948年の民法改正で廃止された)など損害賠償の請求に刑事手続きの成果を利用できる制度の導入です。附帯私訴とは、ごく簡単にいえば、被害者が刑事手続きの中で損害賠償請求を行うことができるという制度です。これまで日本では、刑事事件は刑事裁判で、民事事件は民事裁判でそれぞれ争われていましたが、犯罪被害者が犯罪の事実を知りたいがために民事訴訟を起こすといったケースが少なくありませんでした。しかし、この附帯私訴が可能になれば、刑事裁判の後、別に民事裁判をやるというような裁判の繰り返しを避けることができますし、刑事事件の中に当事者として参加することができる道が開けることにもなります。

 3つ目は犯罪被害者に対する経済的な支援の拡充です。犯罪被害にあってもお金がないため訴訟に踏み切れず泣き寝入りするケースや、裁判で勝っても相手に損害賠償能力がないため被害者の方々の生活が破綻してしまうケースも少なくありません。突然被害に遭われて殺された人のご家族や障害を持たれた方が社会に復帰して自立するまで国が支援していくことが急務です。
ただ、国がすべてのことをやる、行政がすべてのことをやるというわけにはいきません。民間にも参画してもらわなくちゃいけない。誰でも犯罪被害者になる可能性はあるわけですし、逆に交通事故を起こして加害者になる可能性もあるのですから、国民一人ひとりが自分の問題だという意識を高めていただかなくてはいけないと思っています。

政治の顔が見える国づくりを

――ところで、政治家になろうと思った直接のきっかけは何ですか?

上川 アメリカに留学していたときの体験ですね。ちょうど日米貿易摩擦が熱をおびた時期で、日本がものすごく経済パワーを持っていたころでした。でも当時、日本の進むべき道を政治が決断していくという姿は見えなかった。ワシントンで米国上院議員の政策立案スタッフをさせていただいていたのですが、日本は政治の顔よりも行政の顔……その行政の顔もはっきりとは見えない時代でした。どこでどのように国としての意思決定がされているのかわからないのです。
 やはり国民の代表である政治家が国益を代表する仕組みを作らなくてはいけないし、政治家もそういう重責に耐えられる政治家じゃないといけないと、痛切に感じたのです。それが政治の世界に入るきっかけになりました。

――その当時、すでに官僚主導型の日本のあり方が曲がり角を迎えてきていたのでしょうね。

上川 そうですね。そのときから15年経って、やっと小泉さんが重い扉を開いてくれたということになりますね。
 また当時、アジアの中で日本の経済力は最強だったけれど、10年経ったらひっくり返されるかもしれないとも思ったのです。私が留学した大学には中国や韓国からの留学生がたくさん来ていましたが、日本人の学生とは姿勢が全然違っていた。主に官費で来ているエリートたちなのですが、すごいエネルギーで猛烈に勉強していました。そんな彼らが10年20年して彼らの国でリーダーシップを発揮するようになったら……と思ったのです。日本もしっかりしたリーダーが必要だという確信。そのことも政治家になろうと思ったきっかけです。

――これからの日本は大丈夫でしょうか?

上川 いや、危ないと思いますよ。これまでの日本の強みは、国が国民を巧みにリードしながらうまく力を束ね、それをパワーの源泉にして国難を乗り越えるところにあったと思います。しかし最近はそもそも国に対する国民の信頼感や「絆」(きずな)意識が急速に失われつつあり、その結果、危機を克服する力も、新しい時代を切り開いていく力も、著しく低下しているように感じます。そうした一因は「ぶっ壊し」屋を自ら宣言した小泉政権の改革姿勢にあったようにも見えますし、本当はぶっ壊してはいけないものまでもぶっ壊してしまったのかもしれないとも思います。しかし、一国のリーダーがそう宣言せざるを得ないほど、日本の社会があらゆる面で限界に達していたことは確かではないでしょうか。

 もっとも何事もピンチはチャンス。そうした危機感をバネにここで国民の意識を大きく転換することができれば、さまざまな困難を克服できるばかりか、新しい繁栄の時代を切り開くこともけっして夢ではないように思います。一言でいえば、明治維新以来、100年以上にわたり日本を支配してきた中央集権的な枠組みや発想を180度転換することです。これまでは「お上」の言うままに従っていれば一定程度の恩恵にあずかることができたわけですが、これからはそういうわけにはいきません。他方、国民はより大きな自由の下で自分らしく活動したいと考えるようになっています。できるだけ国民の創意工夫や主体的意思に委ねることにより、国主導では実現できなかったような潜在力を開花させることも可能となるはずです。そのためにも、まずは日本人一人ひとりが精神的に自立し、主体的に地域や社会を支える。その延長線上に、より自然な形で日本という国家との絆も意識される。そんな新しい国のあり方がめざされるべきではないでしょうか。私は21世紀の最初の10年間にこの国の姿が大きく転換するだろうと考えています。

――話は変わりますが、来年の参院選が、安倍内閣の行方を左右することになるといわれていますね。

上川 確かに参議院選挙までの1年間がすごく大事だと思います。官邸主導の狙いもあって政権全体の姿が改められ、その歯車がうまく回っていくようになるにはしばらく時間を要すると思います。しかし新政権が実績を上げるにはできるだけ助走期間を短くしなくてはなりません。とりわけ国民からは、この間明らかになった改革の弊害を1年以内に解決するよう強く求められるでしょう。
 もし国民の不安感が解消されなければ、その先、新政権が国民の信頼を取り戻すことはほとんど不可能になります。確かに参院選に勝つことも大事だけれど、問題を先送りせず、しっかりとした成果を挙げることはもっと大事です。自民党としても、なんとなく選挙に勝ちさえすればよい、というようなのんびりムードではなく、早くも政策づくりや体制づくりに全力で取り組む姿勢です。そうした中、私たち若手世代も国政でのそれぞれの持ち場でこれからの1年、全力を出し切る構えです。

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