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かみかわ陽子

論文・対談・投稿・マスコミ

 

(社)被害者支援都民センター会報 「センターニュース」( 2005年2月発行)

 

[特別寄稿]   犯罪被害者等基本法の成立に寄せて

                            ――法律起案者の視点から――

衆議院議員 上 川 陽 子

 

昨年12月1日、犯罪被害者等基本法が成立しました。同法の成立に向けて長年運動を続けてこられた多くの犯罪被害者および支援団体の皆さんに心から敬意を表します。

 

1.関与の経緯

私は昨年2月、自民党司法制度調査会「経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員会」の副委員長に就任して以来、保岡興治司法制度調査会長および塩崎恭久小委員長のご指導のもとで、犯罪被害者のための総合的施策のあり方について鋭意検討を進めてきました。小委員会では毎回、犯罪被害者の皆さんにご出席いただき、ご意見をうかがいながら、常に皆さんの視点に立った議論・検討を心がけてきました。その後の与党内調整や与野党間折衝を通じ、総じて順調に議論の集約がなされ、この度の基本法成立に至りましたのも、皆さんの切実な思いが多くの国会議員の心を動かしたためと確信しています。私自身も皆さんの生の声に接し、皆さんに励まされながら、全力でこの問題に取り組みました。

そもそも私がこの問題に関心を持ったのは、3年前、少年法改正案の国会審議の折に神戸連続児童殺傷事件の被害者のお父さんの訴えを聞き、「政治が犯罪被害者の皆さんの声をもっと大切にしなければ」と感じたことがきっかけでした。犯罪被害者の皆さんは、何の落ち度がないにもかかわらず突然犯罪に巻き込まれ、生命を奪われたり、心身に重大な障害を負わされたばかりでなく、その後も二次的な被害に苦しめられています。皆さんの心身面および社会的、経済的損失は極めて大きいにもかかわらず、十分な支援が受けられないまま立ち直れず孤立化しています。そうした被害者の皆さんの抱えている苦痛と困難を知り、一日も早く回復を図り、平穏な生活に戻れるよう、国が責任を持って取り組むことが必要と考えました。同時に、国民のだれもが犯罪に巻き込まれる可能性が高まっている今日、政治の責任において基本法を成立させ、必要な施策を切れ目なく、総合的かつ計画的に実施することが重要とも考えました。

 

2.法律起案者の狙い

そこで法案の策定に当たっては、犯罪被害者救済に対する国や地方公共団体、さらには国民の責務を明らかにするとともに、犯罪被害者の皆さんの権利・利益の保護を図るため、基本理念および施策の骨格を明らかにすることとしました。

@国、地方公共団体の責任を明確化

犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現を図ることは国、地方公共団体の責務です。もとより犯罪等による被害に対し第一義的責任を負うのは加害者です。その上で本法は、被害を回復したり軽減することに困難が伴う犯罪被害者等への支援について、国や地方公共団体の責任がいささかも軽減されるものではないとの基本的な考え方を貫きました。

A目的は犯罪被害者の権利・利益保護

被害を受けた犯罪被害者が再び平穏な生活を営む権利・利益を有することは当然ですし、また事件の真相を明らかにし加害者の刑事責任を問う刑事手続に適切に関与することも保障されねばなりません。そこで本法ではこうした犯罪被害者の権利・利益の保護を図ることを目的に定め、被害者が尊厳を重んぜられ、それにふさわしい処遇を保障される権利を有することを明確にしました。

B政府組織あげての一元的対応

犯罪被害者の皆さんが直面している身体的・精神的・経済的な諸問題にかんがみ、各省庁の縦割りではなく、政府全体にまたがる一元化した組織を設けることの必要性を痛感しました。そこで犯罪被害者のための施策を企画、調整、実施、推進していくための省庁横断的組織、具体的には犯罪被害者等施策推進会議を内閣府に設けることにより、犯罪被害者のための施策を総合的かつ計画的に推進していく体制を整備しました。なお、今回の立法に際し議員立法の形をとったのも、政府全体を動かすには政治主導による議員立法しかないと判断したためです。

 

以上のような考えに基づく今回の基本法によって、これまで必ずしも明らかでなかった犯罪被害者の皆さんの権利や基本理念が明確にされ、権利・利益の保護のため必要となる基本的施策が具体化されるとともに、施策実現のための省庁横断的な組織体制を作り上げることができました。今後は基本法で定めた枠組みに従って犯罪被害者等基本計画を策定し、これを着実に実行していく段階を迎えますが、従来、個別対応にとどまっていた犯罪被害者の皆さんへの施策に一本の太い背骨を通すことができたのではないかと自負しています。

 

3.論点・課題

しかし同時に、今回の基本法の成立は犯罪被害者支援のための第一歩に過ぎないとも考えています。基本計画が真に犯罪被害者の皆さんのための施策となっているかどうか、計画が着実に実施されているかどうかを見守っていくことが、本法案の提案者である私に課せられたこれからの課題です。そうした中でとりわけ気がかりなのは、 @公判など刑事手続に被害者がどう関わるか、Aマスコミ等による二次被害から犯罪被害者をどう守るか、という問題です。

@刑事手続に犯罪被害者がどう関わるか

犯罪被害者の皆さんにとっては、法廷で加害者に直接対峙し自らの無念な気持ちを伝えたい、加害者が犯罪に至った経緯や現在の心境などを問い質したい、というのは当然の願いです。しかし現行法制上は、被害者が刑事手続に関与することに厳しい制限が課されています。平成12年に刑事訴訟法が改正され、犯罪被害者にも刑事手続への関与が一部認められましたが、被害者の皆さんが十分満足できるものにはなっていないようです。今回の基本法制定作業においても、この点についてどこまで踏み込むかがもっとも議論を呼んだ点でした。最終的には第18条に「刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等必要な施策を講ずるものとする」旨、条文が盛り込まれましたので、今後、犯罪被害者の皆さんの要望も踏まえつつ十分な議論が行われることを期待しています。

Aマスコミ等による二次被害の防止

今回の法律は、犯罪被害者の皆さんの名誉と生活の平穏を保護する必要があるとの考えから、二次被害の防止を広く国民に求めています。とりわけマスコミについては、被害者の人権を蹂躙するケースが少なくないだけに、立法の過程ではマスコミによる被害を防止するための規定を盛り込むべきとの意見も出されました。最終的には、国民の知る権利に奉仕するというマスコミの役割や、国民の誰もが二次被害の加害者となりうることなどにかんがみ、マスコミに特定した規定は設けないことにしました。しかし報道機関の皆さんにはこれまで以上に犯罪被害者の人権を十分尊重し、責任ある対応が求められます。この点が今後どのように改善されるかについては、十分見極めていく必要があります。

おわりに

私はここ数年、犯罪被害者等基本法のほか、児童虐待の防止や人身取引の禁止に関する法整備にも関わっています。そうした中で強く感じるのは、社会的弱者の立場にいやおうなく追い込まれた人々に対し、日本の法制度があまりに無頓着である点です。そうした日本社会の弱点を克服し、世界に誇れる「人権大国・日本」を実現すべく、引き続き努力を重ねていく所存です。今後とも一層のご指導・ご鞭撻を賜りますよう心よりお願い申し上げ、私の報告といたします。

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