夜間医療充実の緊急提言をまとめ、厚生労働大臣に提出2006 年 7 月 19 日 7月 4 日、自民党看護技術者対策議員連盟(会長:津島雄二・元厚生大臣)において夜間医療の充実に関する緊急提言が了承され、本日、川崎厚生労働大臣に提出するとともに、その内容を記者発表いたしました。 この提言は、地域住民が夜間に安心して医療サービスを受けられる体制を構築するため、地域の特性に応じ病院間のネットワーク化や医療スタッフの質・量両面の充実を図ることなどを求める内容で、本年 3 月、私が座長を務める「夜間医療に関する勉強会」を設置し、以来 4 ヶ月にわたり検討を重ねてきたものです。今後もさらに勉強会を重ね、施策の充実に努力するつもりです。 2006 年 7 月 5 日付 静岡新聞
2006 年 7 月 20 日付 静岡新聞 (目 次) I. 提言書 II. 参加メンバー III. 夜間医療に関する勉強会―― 今までの日程
I. 提言書夜間医療の現場の声に応えて5つの緊急提言2006年6月15日 看護技術者対策議員連盟 夜間医療に関する勉強会 はじめに 昨今の都市生活の高度化、人々のライフスタイルや働き方の多様化、高齢化の進展等、社会環境が大きく変化するのに伴い、夜間の救急や外来、入院病棟など、夜間医療の現場は、多様化・複雑化する患者・住民の要望・ニーズに必死に応えている状況がみられる。 夜間特有の医療や看護に加え、夜間といえども昼間並みの医療や看護が求められるようになり、これまでの医療提供体制や制度ではそのニーズに対応できなくなっている。この結果、夜間医療の現場を支えるスタッフの負担とストレスは想像以上に高まっており、こうした状態を放置すれば、医療リスクが高まるばかりか地域医療の維持さえ難しくなる危険性も孕んでいる。 地域住民にとって夜間・緊急の時も安心して医療サービスが受けられ、また地域において継続して安全な夜間医療を提供するためには、現状の医療提供体制を見直し、現場の声に応えて夜間医療の実態にふさわしい医療提供体制を構築する必要がある。 こうした問題意識のもと、本勉強会では、7回にわたり様々な現場の声をヒアリングし、関係者間での議論を重ねた。これに基づいて、以下のとおり課題と対応を緊急提言する。
夜間医療の現場の声(問題点) 夜間医療の現場の声から、次のような問題点が浮き彫りになった。 @医師・看護師の人員不足は慢性化し、夜間勤務離れが生じている。高まる夜間の医療リスクにより夜勤離れがさらに進むという悪循環が生じている。 A入院患者の高齢化が進み、認知症の患者割合が高まっている。夜間せん妄について的確な判断と対応が求められるなど、入院実態の変化に対応し、看護師に求められる看護スキルも高度化している。 B夜間救急入院に際し、空きベッドの都合上他科の患者を受け入れ、その結果複数の診療科の患者が混在する病棟・病室が発生しており、看護師の負担や医療・看護リスクが高まっている。 C新人看護師の場合、着任約1年間は担当指導者による助言指導を受けるなど採用後の教育が必要であり、夜間体制に影響を与えている。また、約1割が仕事についていけない等の理由により1年以内に離職している状況にある。 D勤務交替時の引継ぎのための看護記録の作成は、医療紛争への備えや個人情報保護法に対応した記録管理の厳格化とも相まって、業務の大きな負担となっている。 E夜間に薬剤師が当直していない病院において、日中であれば薬剤師が担当する業務を、医師・看護師が行っているケースがあり、医療安全面のリスクが生じている。 F病院スタッフの約 6 割を占める看護師の労働に対し、報酬面・勤務体制面で正当に評価されていないとの現場の声が聞かれる。 G病院経営上負担が大きい等の理由により、切実な要望のある院内保育所の整備等次世代育成支援への取り組みは消極的になりがちである。 H夜間専従看護師の活用や二交代制の導入等に取り組む病院もあるが、夜間専従看護師と常勤看護師との意識に差が生じるなど問題もある。 I産休・育休により欠員が生じた場合、その都度補充されないため、スタッフへの負担が過重になっている。 J「救急車は無料だから、夜間であれば待たずに診療できるから」といった理由で、軽症の場合でも夜間救急外来を利用する件数が増加している。 K夜間には昼間と同様に約3割の病院で患者から看護職員への暴力が発生し、また 2006 年 1 月には乳児連れ去り事件が発生する等、院内の安全が脅かされる事態が生じている。 夜間医療の課題と対応策 以上のような現場の種々の問題に対応するために、緊急提言で示したように夜間医療の課題を大きく5つに整理し、それぞれ対応策を提案する。その際、@夜間の救急と外来の問題(診療科が多岐にわたり、重症度の様々な患者が一つの窓口に来院)と、A昼間に比べ医療・看護体制が薄い夜間の入院病棟の問題とを整理しつつ検討した。
1.地域医療計画において病院の役割を明確化し、医療資源の有効活用を! 社会保障費の大半を占める医療費の伸びの抑制が求められている現状で、地域住民の医療ニーズに的確に応えていくためには、地域の限られた医療資源を、効率的かつ最大限活用することが求められる。 (1)地域医療の連携体制・ネットワーク化 新しい医療計画制度の下では、都道府県における検討が求められるが、地域特性に応じ、大きく分けると、例えば次のような整理で検討することが考えられる。 (ア)公立・民間の大病院が存在し競合もしている「都市部」 → 各病院が役割分担を図り、その機能を明確化していくこと (イ)小児科や産科で医師配置の薄い病院(公立病院であることが多い が、民間もあり得る)が散在している「地方中小都市部」 → 集約化・重点化を検討し、実施していくこと (ウ)へき地・離島など「過疎地」 → 当該地域の病院・診療科の存続策を含め、地域の医療を確保する ため の対策を講じていくこと (2)病院機能の明確化・魅力づくり 平成18年度診療報酬改定により、手厚い看護配置への評価を高めるとともに、時間帯ごとの実際の配置状況を表示することが義務付けられたが、各病院において適切な配置を行うには、その魅力づくりが求められる。 病院の機能の明確化、魅力づくりや、労働条件の整備、次世代育成支援対策など、病院経営としての取り組みが求められる。 (参考)医療機能評価においては、各病院がどのような方針を持っているか、そしてその方針に応じた体制を確保し、手順を定めているかが、一つの評価基準となっている。 (3)病院間で標榜する診療科の調整 全ての病院が総合病院を目指すのではなく、上記のような地域医療の連携体制を強化し、病院間で診療科の役割分担を進めることで、適切な医療提供体制をとることができると考えられる。(これにより他科の患者受け入れの減にもつながる効果あり。) 一方で、集約化等を進めることで、身近にあってほしい小児科や産科が地域の病院から無くなり、地域格差が生じることへの懸念もあることから、そうした地域への対策も検討する必要がある。 (4)普通の「夜間や休日の診療」ニーズへの対応 上記の夜間救急や病棟の体制に関する課題のほか、仕事や学校を終えた後の普通の診療ニーズ(「救急」ではない普通の「夜間や休日の診療」ニーズ)に当たり前に対応できる夜間外来の体制整備も課題として指摘できる。 (5)看護師副院長制の普及 現在、多くの病院が財政的困難に直面しており、社会保障費の圧縮される中、地域住民のニーズに応えて医療の質を高めつつ効率的な事業運営をしていかなければ、さらに病院経営が厳しくなると考えられる。病院全体のことを熟知した看護師が副院長になり、入院に関する権限を持ち、経営に参画することで、医療サービスの向上と病院経営改善の両立が可能であり、看護師を副院長に登用する病院の拡大を図るべきである。
2.医師・看護師等の医療スタッフの質・量両面の充実を! 医師・看護師の偏在や、夜間の医療現場における看護師の不足に対応して、全体としての、また地域ごとの提供体制に応じた医師・看護師の質・量両面での確保方策が必要である。 (1)新人看護師の教育 国民の看護ニーズに的確に応えられるよう、基礎教育段階での実習をより充実するなど、看護師の養成・教育のあり方の見直し、及び卒後臨床研修等について、具体的な検討を進めるべきである。 (2)潜在看護師の把握 中央及び都道府県ナースセンターによる紹介事業をより機能させることにより、医師について国への登録制があるように、看護師資格を持つ者のナースセンターへの登録を促進することが必要であり、名簿の作成やキャリア再開発研修など具体的な取り組みを強化する必要がある。 (3)地域の医師確保対策 平成16年度からの臨床研修制度の評価をしっかり行うことが必要である。また、病院における小児科、産科等の医師不足が指摘されており、医師のキャリア形成の仕組みが、従来の大学を中心とするものから変容していることへの対応を検討すべきである。 (参考)政府は、都道府県ごとの医療対策協議会で、大学や公的医療機関の参画を得て対策を検討すべきとしている。小児科・産科を含め、専門的能力を高めるキャリア形成のルートが多様化しており、一部大学の医局の力が低下していることと相まって、医師の需給調整機能が混沌としており、その再構築が求められている。
3.夜間医療の現場の実態に合わせた適正な人員配置を! 夜間の医療リスクを減らすために、人員を適正に配置することが必要不可欠である。増員のみにとどまらず総合的に対策をとることで、夜間の医療従事者の負担軽減を図る。 (1)夜間救急のマンパワー 夜間救急について、特定集中治療室における診療報酬上の基準を除き、夜間であることに特化した形では医師・看護師の配置基準は定められておらず、地域性や患者の発生状況等に応じてどのように配置するかは各病院の裁量に任されている。 それぞれの病院が地域の救急医療で果たす役割(救命救急センター、入院機能を有する救急医療機関、初期の救急医療機関)に応じた形で、医師や看護師の専門性などの質も含め、近隣医療機関との連携を図り、マンパワーの活用を図っていくことが必要である。 また、近年増加している自殺企図患者への適切な対応に向けて、院内の精神科医や患者の精神的ケアのできるリエゾン看護師との連携を図る。 (2)ベッドコントロールへの看護師の関与 夜間救急外来の患者が入院に切り替えられた場合に空いている病棟・病床に搬送されることによって、複数の診療科の患者が混在する入院病棟が発生し、現場での医師・看護師の負担やリスクが高まっている。 診療科間の調整(ベッドコントロール)に看護師が積極的に関わることが一つの解決策と考えられる。また、医療機能の役割分担と機能の明確化により、各病院が標榜する診療科の数を制限することや、その病院が専門の救急病床を持つのか、ベッドの調整で対応するのか、救急患者の受け入れの方針とこれに基づく手順を明確に定めることで、リスクの低減を図る必要がある。 (3)産休の欠員補充を含めた適切な配置 産休での欠員を補充しない場合には、実際に欠員が生じる前と比較して、スタッフへの負担が大きくならざるをえない。平成18年度診療報酬改定において、看護師の配置基準が、雇用者数から実配置数に変更されるとともに、併せて、看護師・看護補助者の労働時間が適切なものであること、との通則規定が置かれたことの周知を図る等により、欠員の補充を含めた適切な配置を促す必要がある。 また、本年4月から産休の代替に派遣労働者を活用することが可能になったので、その周知を図るとともに、活用動向を見守る必要がある。
(4)各職種間の業務の見直し 医師・看護師・薬剤師等の専門職間の業務を整理し見直すことで、病院経営の効率化や、夜間の医療従事者の負担やリスクの軽減を図ることが可能であり、検討を進めるべきである。例えば、患者の重症度を判断するトリアージナースの養成・活用が考えられる。 また、夜間帯を含めた病院に勤務する薬剤師の業務のあり方及び配置基準のあり方について具体的な検討を行う必要がある。 (5)夜間の安全管理体制の整備 夜間の病院において、医療従事者や入院患者の安全のために保安体制の一層の充実が求められている。監視カメラの設置や警備員の配置等、保安体制にかかるコストは全て病院の負担となっており、暴力防止に向けたキャンペーン、保安に関する職員研修・マニュアルの作成、予算措置など安全管理体制への支援を検討する必要がある。
4.医師・看護師等の育児期にも配慮した多様な働き方の支援を! 医療従事者のそれぞれのライフスタイルや育児期などのライフサイクルに対応できる多様な働き方を支援するために、行政と病院それぞれが、労働環境・労働条件の整備・改善にむけて取り組むことが必要である。 (1)夜間救急医療を担う従事者の労働環境 労働基準法の諸規定が適用除外される「労働基準法の宿日直の許可」の制度は、365日24時間体制の救命救急センターなど断続的に患者が訪れる現場についてはなじまない。また、広く薄い医師の配置は、労働環境の観点からも医療リスクの観点からも問題である。集約化・重点化を図ること等により、看護師の待遇改善や、交代制勤務が可能な体制づくり、労働者の安全衛生対策の充実を促進することが必要である。 (2)多様な働き方・次世代育成支援対策 夜間専従看護師の活用や二交代制の導入については、病院が採用することに制度面での障害があるわけではなく、個々の病院の経営判断にゆだねられている。今後とも、現場を担う職員と経営サイドとで調整しつつ検討されることが望ましい問題である。 病院における次世代育成支援対策(院内保育所などの保育対策を含む)は、事業主たる病院において取り組むことが求められる。その上で、24時間体制で看護師そして女性医師が働く職場であることに鑑み、民間病院における院内保育所事業に対する国の補助事業は、引き続き実施されるべきである。また、短時間正社員の制度化など多様な働き方を支援することが求められる。
5.小児救急電話相談事業の一層の強化等、住民への的確な情報提供を! 夜間救急や外来の重症患者と軽症患者の混在が医療現場に大きな負担となっている。先に述べたように、地域において各病院が役割分担を明確にし、医療提供体制を整えた上で、医療を受ける住民に病院の役割に応じた利用を促す必要があり、そのために住民に適切な医療情報の提供が重要である。 (1)小児救急電話相談の拡充 小児救急医療の充実が求められる中、夜間・休日における軽症小児患者の保護者等の不安に対応し、適切な医療機関への受診を促す「小児救急電話相談事業」を進めているが、さらに、全都道府県において24時間体制で行われることとなるよう早急に体制整備を図るべきである。また、同様の観点から、病院における電話相談、保健師・助産師による訪問相談事業の推進を図るべきである (2)医療機関の情報の開示 患者・住民が医療機関を選ぶために必要な、医療機関の機能に関する情報、地域の医療機関相互の連携の仕組みについての情報が不足していることから、新設される医療情報公表制度に基づき、的確な情報開示を推進する必要がある。 (参考)患者・住民が医療機関を選んだり、医療機関が紹介先を探したりする場面でも、地域の医療機関の医療機能に関する情報が明らかになっていることが重要である。医療法等改正法案に医療情報の公表制度が盛り込まれ、また、医療計画の見直しに当たっても医療連携の情報を明らかにすることが盛り込まれているが、職員数や、手術後死亡率など診療実績(アウトカム)に関する情報を含め、利用者の目に触れる形でデータを明らかにしていくことが必要である。 (3)医療計画策定への住民参加 地域ごとの医療提供体制の現状と問題点を明らかにし、医療連携体制を構築していく新しい医療計画の作成過程に住民の参加を求め、検討状況を住民に明らかにしていくことなどにより、住民に地域医療の現状についての理解を求め、啓発を図り、参加意識を持ってもらう取り組みが必要である。 (4)救急車の利用のあり方 救急車は無料だから、夜間であれば待たずに診療できるからといった理由で、夜間救急外来を利用する件数が増加している。救急医療に関する患者・住民の理解を高める啓発活動を行うとともに、重症度に応じた患者搬送ができる地域の体制づくりを図る必要がある。
II. 参加メンバー●看護技術者対策議員連盟 会長 津島 雄二 副会長 清水 嘉与子 事務局長 南野 知惠子 ●夜間医療に関する勉強会 座長 上川 陽子 副座長 阿部 俊子 参議院議員 阿部 正俊 金田 勝年 坂本 由紀子 常田 享詳 山下 英利 衆議院議員 大村 秀章 鴨下 一郎 岸田 文雄 佐藤 勉 田村 憲久 根本 匠
III. 夜間医療に関する勉強会―― 今までの日程第1回 厚生労働省より説明 3月8日 第2回 看護師からのヒアリング 白松万里子 静岡県看護連盟会長 3月 22 日 第3回 病院経営者からのヒアリング 池澤康郎 日本病院会副会長 中野総合病院理事長 4月5日 第4回 医師からのヒアリング 石松伸一 聖路加国際病院 救命救急センター部長 4月 19 日 第5回 医療機能評価機構からのヒアリング 大道久 理事 後信 部長 5月 17 日 第6回 病院事業管理者からのヒアリング 武弘道 川崎市病院事業管理者 5月 31 日 第7回 日本看護協会からのヒアリング 楠本万里子 常任理事 とりまとめ(案) 6月7日
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